読書メモ:高間邦男「学習する組織」

ここのところ、経営学に関するさまざまなトピックを追いかけて本を読んでいるが、さまざまな角度から検討されているものだと感心する。たしかに、経営を成功させることは難易度が高く、しかも、それを望む人は多い問題である。多様なアプローチがあって当然である。
今日は、ラーニング・オーガニゼーションに関する新書、高間邦男「学習する組織 現場に変化のタネをまく」について読んで印象に残ったところについて書いてみようと思う。

……これまでいくつかの会社で、業績・マネジメントのあり方と、社員の行動・認知について、全社的なアンケートを実施し、統計的な解析を行ってきた。しかし、その解析結果のどれを見ても、報酬の高さと社員のやる気・業績との顕著な相関関係はでてこない。つまり、報酬を高めたら社員がやる気になり、業績が高まるという因果関係はないと言わざるを得ないのだ。
(p85)

うつ病になって、長期の傷病休暇を取った。また、復職してからもしばらくはリハビリ勤務で、短時間勤務だった。もちろん、ほとんど仕事らしい仕事をしていなかったから、業績評価も下がった。その結果、大幅な年収ダウンとなった。実際、短時間勤務だった時は、倹約生活をすることになった。良い子ぶるつもりはないが、このことと仕事の上でのやる気とはほとんど関係がなかったと思う。
報酬が下がることはうれしくはないし、困ることもあったけれど、仕事をしていないことは事実なだけに、納得はしていた。逆に、定時勤務に回復して、かつての月収にもどった時、家計の上では助かると思ったけれど、だからといって急に仕事への意欲が高まる訳でもない。
狭い意味での報酬と仕事のモティベーションとの相関は低いとはよく言われていることだけれども、実際に収入が下がるという経験をして、あらためてそのことを実感として感じた。

 エンゲージメントとは、ひと言で言えば、組織と個人が対立的ではなく一体となって、お互いの成長に貢献しあう関係である。
……
 調査の結果分かったことは、エンゲージメントの強さは三つの要因で構成されているということである。
 それは、自分が組織の活動を通して組織や社会に役立っているという「貢献感」、組織が自分らしい場所だと感じる「適合感」、お互いに共感できる人々がいるという「仲間意識」である。
(pp65-67)

ここ最近のエントリーで、私が勤めている会社の文化が、経営者の文化と従業員の文化が分裂していることについて書いた(id:yagian:20080924, id:yagian:20080925)。このエンゲージメントの三つの要因から従業員の持つ文化の特徴を見てみると、会社を通じた社会への貢献は強く希求されていて、ある程度の「貢献感」は獲得されていおり、この会社が自分らしい場所だと感じる「適合感」は共有されていると思う。この二つに比べると「仲間意識」はやや低いかもしれない。全体としてみれば、私の勤める会社への従業員のエンゲージメントは強く、その基礎として従業員の持つ企業文化があると思う。経営者にも従業員が持つ企業文化のそのような機能、役割について十分に理解してもらいたいと思う。
次は、コミュニケーション不全についての記述について。

 儀礼的な会話が起きる背景には、参加メンバーの安全が確保されておらず、率直に話をすることに対する恐れがある。恐れとは、話の内容をジャッジされるのではないかという危惧のことである。この恐れをメンバーから拭いさらないと、いくら話し合いの機会や場を用意しても何にもならない。「物言えば唇寒し秋の風」「沈黙は金」などという言葉は、この会話のパターンを表している。
(p141)

経営者も、従業員との異文化摩擦には気がついている。そして、「ツゥー・ウェイ・コミュニケーション」というかけ声をかけ、さまざまなコミュニケーションの機会やツールを作っている。しかし、経営者は従業員にジャッジされることを恐れ、逆に、従業員も経営者にジャッジされることを恐れ、儀礼的な会話が飛び交っている。誰かが危険を恐れず胸襟を開かないと、この儀礼的な会話は打開できそうにない。
最後に、ビジョンの重要性について、引用したい。

 …なぜビジョンやバリューが大事なのか。それは、魅力的で具象的な目的や世界観・価値観の共有を通して、組織としての一体感を強め、経営陣や社員のコミットメントを高めることができ、さらに、現状を打破し、挑戦を引き出すことが可能となるからである。またこれらは、経営層はもちろん、従業員が主体的に意思決定する上での判断基準としても機能する。
 変化が激しく、複雑性の高い状況にある今、多くの企業は社員の主体的・自律的行動を期待し、エンパワーメント(権限委譲と訳される場合があるが、社員に力を付けは危機会を与えるという側面がある)を推進している。このとき、ビジョンやバリューが浸透していなければ、社員が独自の判断基準によって意思決定や行動することとなり、組織として目指している状況に到達することはできなくなるだろう。
(p189)

私の勤める会社は、経営者と従業員の文化の断絶で、まさにここに書かれているように「社員が独自の判断基準によって意思決定や行動すること」となっている。ビジョン、バリューの共有は重要である。
この本を読みながら、理想の組織はまだまだ遠くにあると実感した。

学習する組織 現場に変化のタネをまく (光文社新書)

学習する組織 現場に変化のタネをまく (光文社新書)