「あの女」といってもアイリーン・アドラーの話ではない。
「彼岸過迄」を読み終わり、今度は「行人」に取り掛かっている。
漱石の小説群のなかで、「三四郎」「それから」「門」が前期三部作と呼ばれ、「彼岸過迄」「行人」「こころ」が後期三部作と呼ばれている。「彼岸過迄」を読んだのには特に意図があったわけではないけれど、どうせなら後期三部作を続けて読もうと思った。
「行人」は、「友達」「兄」「帰ってから」「塵労」という四つのパートから構成されている。この小説を書いていた時期、漱石の体調が悪く、「帰ってから」のパートを書いている途中で連載を中断している。以前「行人」を読んだ時、漱石の胃の苦しさがありありと伝わってくるような、重苦しい小説だという印象があった。
今、ちょうど「友達」のパートを読み終わったところである。「友達」でも、漱石の病気を反映したように、登場人物が胃の病気になるけれど、あまり重苦しい印象はない。このパートを執筆していたときは、漱石のまだ病状が軽かったのかもしれない。
「友達」は独立した短編としておもしろく読むことができた。「あの女」と「その娘」と呼ばれる二人の女性が登場する。この二人は、いわば脇役に過ぎないけれど、漱石の小説のなかに登場する女性のなかでも強い印象が残った。
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