クリント・イーストウッドがアカデミー賞監督賞を受賞した「許されざる者」を見た。
この前見た「ペイルライダー」(id:yagian:20090718)は神話的ウェスタンだったが、「許されざる者」はリアル・ウェスタンである。
「ペイル・ライダー」は、かつて殺された男が亡霊となって復讐を果たす話である。亡霊となった主人公には、名前が与えられず、プリーチャーと呼ばれている。彼は無敵で、誰も対抗することができない。彼の復習譚が、とびきり美しく静謐な画像で、神々しく語られる。
一方、「許されざる者」は、かつては無法なガンマンだったが、そこから足を洗ったウィリアム・マニーという男が主人公である。今は豚を飼って暮らしているが、病気となった豚を追い回して泥だらけになっている。しかし、生活は苦しく、息子たちの将来のために、一回だけ賞金稼ぎの殺しをすることにする。しかし、久しぶりに手にしたピストルの練習をすると標的に当たらず、散弾銃を手にする。馬に乗ろうとすると、馬に嫌われて落馬してしまう。
「ペイルライダー」の復讐はカタルシスがある。なにしろ、自分を殺した相手を殺すのだから、殺す必然性がある。決闘で殺すのである。
しかし、「許されざる者」の殺人にはカタルシスがない。賞金をかけられた男は、娼婦の顔を切ったことで追われることになる。ウィリアム・マニーにとっては、賞金首ということ以外、殺す必然性がない。殺す側もためらいながら殺すし、殺される側にも救いがない。一人はライフルで狙撃され、一人はトイレに入っているときに撃ち殺される。なんとも陰惨である。
「許されざる者」は、クリント・イーストウッドの映画のなかでも暴力をもっともリアルに描いていると思う。
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