「回転木馬のデッドヒート」(id:yagian:20090729)に続いて、村上春樹の短編集「中国行きのスロウ・ボート」を読んだ。村上春樹の第一短編集である。
「回転木馬のデッドヒート」を読んだときには、とにかく、その小説巧者ぶりが印象に残ったが、この「中国行きのスロウ・ボート」は印象が違った。
「午後の最後の芝生」という短編のなかに小説について言及しているところがある。
記憶というのは小説に似ている、あるいは小説というのは記憶に似ている。
僕は小説を書きはじめてからそれを切実に実感するようになった。記憶というのは小説に似ている、あるいは云々。
どれだけきちんとした形に整えようと努力してみても、文脈はあっちに行ったりこっちに行ったりして、最後は文脈ですらなくなってしまう。なんだかまるでぐったりした子猫を何匹か積みかさねたみたいだ。生あたたくて、しかも不安定だ。(p151)
読みづらいわけではないけれど、「回転木馬のデッドヒート」ほどストーリーが流れていかない。それぞれの作品のコアとなるテーマ、イメージを執拗に書いているという感じがする。あえていえば、「子猫を何匹か積みかさねた」みたいかもしれない。
恐らく、現在の村上春樹は、小説に対してこのようなイメージは抱いていないだろう。文脈ですらなくなってしまうというような迷いは見られない。いちばん新しい短編集「東京奇譚集」は憎いほど巧い小説が並んでいる。もう、「子猫を何匹か積みかさねた」ような小説ではなくなっている。
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