父親たちの星条旗

NHK-BSのアカデミー賞特集で放送された「父親たちの星条旗」を録画しておいたものを見た。クリント・イーストウッドの硫黄島二部作の第一作である。アメリカ側から見た硫黄島の戦いを描いている。
硫黄島の擂鉢山の山頂に星条旗を掲げる写真に写った兵士たちは、特別に英雄的な行動をしたわけでもないのに、戦場からアメリカ本土に呼び戻され戦時国債販売促進のためにヒーローに仕立て上げられる。一方で、硫黄島の戦場では彼らの仲間たちが次々と戦死して行く。
ヒーローに仕立て上げられた兵士たちは、自分たちが実際にはヒーローとしてふさわしくないことは自覚している。ある兵士はそのことに葛藤し、ある兵士はヒーローとして扱われることを利用しようとし、ある兵士は淡々と自分の立場を受け入れる。
戦場の描写はリアルで、極限的な状況だということが示される。しかし、そこで戦う兵士たちは、それぞれ個性を持ち、あるものはヒーローと扱われあるものは戦死しするそれぞれの運命をたどるが、みなごく普通の人間として描写される。
普通の戦争映画では、ヒーローが、そして、アンチヒーローが登場する。しかし、「父親たちの星条旗」ではヒーローもアンチヒーローも登場しない。日本側から硫黄島の戦いを描いた「硫黄島からの手紙」でも、二宮和也が演じた西郷一等兵や加瀬亮が演じた清水上等兵は普通の人間である。
硫黄島二部作がイラク戦争に対する反戦映画と解釈されることがある。確かに、戦争を賛美した映画ではないし、戦争の悲惨さを描いている。しかし、積極的に反戦を訴えた映画というわけではないと思う。
ヒーローに仕立て上げられた兵士たちも戦死した兵士たちもヒーローではなく、アメリカ軍人も日本軍人も特別な人間ではなく普通の人間であり、戦争も普通の人間の営みであるということがこの二部作のメッセージなのだと思う。

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