ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理

「ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第一部基礎的諸概念」(id:yagian:20101013:1286916789)の続きです。
ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」の読書も第二部に入った。
だんだん難解さが増してくる。特に、格差原理に関する議論は複雑ですんなりと理解できない。翻訳、特に、キーワードの訳語の問題もあるような気がする。もしかしたら、英語で読んだ方がわかりやすいのかもしれない。
ともかく、要約をしてみようと思う。

ジョン・ロールズ「公正としての正義 再説」第二部正義の原理 要約

  • 「公正としての正義」として、社会を自由で平等とみなされる市民間の公正な協働システムとみるとき、何が基本的な権利および自由となるか定め、それぞれの市民が生涯を通じて獲得できると考える見込みに関する社会的・経済的不平等を規制するためにどのような正義原理が最も適切か。この論点に答えるために、以下の二つの正義の原理を提示する。
    • 第一原理:各人は、平等な基本的諸自由からなる十分適切な枠組みへの同一の侵すことのできない請求権をもっており、しかも、その枠組は、諸自由からなる全員にとって同一の枠組みと両立するものである。
    • 第二原理:社会的・経済的不平等は次の二つの条件を充たさなければならない。第一に、社会的・経済的不平等が、機会の公正な平等という条件のもとで全員に開かれた職務と地位に伴うものであるということ。第二に、社会的・経済的不平等が、社会のなかで最も不利な状況にある構成員にとって最大の利益になるということ(格差原理)。
  • 第一原理は第二原理に優先する。第二原理のうち機会の平等は、格差原理に優先する。劣後する原理を適用する場合には、優先される原理が完全に充足されることが前提となる。第一原理は憲法によって保障されるべきであり、第二原理は憲法に基づく法の立法段階で考慮されるべきものである。
  • 第一原理に規定される基本的諸自由は、基本的諸制度と社会政策が正義に適うか判断すること、善の構想を追求するための道徳的能力を行使すること、という二つの道徳的能力が行使されるために必要な前提条件となる。
  • 基本的諸自由と機会の公正な平等が保証されている社会では、全員が公知の協働のルールに従って行動し、その結果生じる所得と富の分配は正義に適ったものとして受け入れられる。これを背景的手続的正義と呼ぶ。この正義の原理においては、富と所得の分配について功利主義は拒否される。
  • 社会の基本構造は、いくつかの社会制度から構成されており、人間はそのなかで道徳的能力を発達させ協働する社会的構成員となる。この基本構造は、世代にわたって背景的正義を現実化させ、維持するための枠組みとなり、市民を自由で平等な者という自己理解に向けて教育する役割を果たす。
  • 生まれつきの才能の分配は、自らの地位に道徳的な功績の意味で値しない。すなわち、すぐれた能力は、その個人の道徳的な功績によるものでも、その功績を示すものでもない。格差原理の要請を充足する基本構想においては、報酬は生まれつきの才能分配上の地位に対してではなく、その才能を自分の善だけではなく、他の人々の善にも貢献するために使ったことに対して与えられる。
  • 背景的手続的正義を実現するための制度は、政治的諸自由の公正な価値と機会の公正な平等を何世代にわたって維持するのに十分な程度にまで、財産および富の保有の格差を長期にわたって少なくするために貢献しなければならない。そのため私的権力の過度の集中を防止するために財産の遺贈・相続を規制する法律、課税などが適用される。

ロールズの議論のポイントは、格差原理にあるのだろうけれど、その論拠となる議論は複雑である。
共産主義とは異なり、社会的・経済的格差を完全に否定する訳ではない。しかし、格差を生む才能の分配について、優れた才能を持つ者が道徳的に優越しているということは否定し、才能に応じた報酬を得ることは否定する。道徳的には、才能を持った者は他の人々に貢献し、そのことに対して報酬を得ることができると考える。ロールズは、偶然によって配分される才能などの要因による格差の存在は、不公正なものと考える。
自分自身のことを考えると、社会全体を考えれば、それなりの才能を与えられており、それなりの報酬を得ていると思う。また、その報酬を得るに当たっては、社会的に認められたルールに基づいており、手続き的正義は満たしているように思う。しかし、その報酬が、社会で最も恵まれない人々の利益に増進への貢献に相応しいものかはよくわからない。
マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」の第六章の要約に、格差原理のことをコンパクトにまとめてある。これも参照していただければと思う(id:yagian:20100703:1278111321)。

公正としての正義 再説

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これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

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