福島第一原子力発電所事故の教訓を国際的に共有すべき

REAL-JAPAN.ORGというウェブサイトで勝間和代が「原発事故への提言 − リスクがリスクを招かないようにしたい」という文章を書いていた。(http://goo.gl/eW4FS)
以下は、勝間和代の文章に対するコメントである。
今回の福島第一原子力発電所の事故を契機に考えるべき問題は、原子力発電所放射性物質の漏出、汚染などについての技術的、科学的側面と、原子力発電所を中心としたシステムを管理推進する東京電力経済産業省原子力安全委員会原子力安全・保安院などを中心とした体制的、人的側面があると思います。
前者については専門家ではないのでコメントはしません。
後者については、JCOの事故を契機に法律、制度を整備したものの、それが適切に機能していなかった、また、今回の事故への対処にも問題が多いということは明らかだと思います。
IAEA東京電力原子力安全・保安院などに対して透明性を高めるよう要請したように、東京電力経済産業省を中心とした原子力発電システムを管理推進する体制に対する不信感は、単に日本に住む一般の人びとにとどまらず、海外の専門家も含めて共有されている状態です。今後日本において原子力発電システムを推進するには、この不信感を払拭する抜本的な改革が大前提と思います。推進以前に、現在運転されている原子力発電所を維持管理するためだけにも、抜本的な改革が必要なことは明らかです。
現状は、福島第一原子力発電所を安定した状態に導くための緊急対応が第一に優先されるべきで、将来の原子力政策を論じる時期ではないです。今回の事故の進展について、東京電力原子力安全・保安院ともに、確たる見通しを持って、計画的に対処しているとは思えません。予想外の事故の展開に彌縫的に対処しているように見えます。おそらく、今の段階では、最終的な事故の影響、リスクを正確に評価できる人は誰もいないのではないでしょう。現状では、将来の原子力政策を判断する基礎となるリスクなどについての客観的、科学的データは共有されていません。
勝間さんは「今後のエネルギー政策の中で…より先を見た具体的な議論をして」と書かれていますが、現段階で、どのような情報に基づいて「具体的な議論」をすべきか大いに疑問を感じます。また、「すべてのリスクマネジメントが信用出来ない、となってしまうと、だれが何を信用したらいいのか、わからなくなってしまうでしょう。」と書かれていますが、勝間さんは現在の日本の東京電力原子力安全・保安院のリスクマネジメントを信用できるとお考えでしょうか。少なくとも、国際的には信用されていないと思います。原子力発電システムを持っている、もしくは、これから整備しようとしている国が自らの原子力政策を日本の現体制によるリスク評価を鵜呑みにして決定するとはとても思えません。
事故への対処がある程度進んだ段階で、現状の体制ではなく、IAEAが中心となった国際的な信頼を得ることができる体制で今回の事故の影響、リスクを評価し、それに基づいて原子力政策を論ずべきです。少なくとも、現段階では原子力政策を検討するには科学的な情報も不足しており、信頼しうるレビューをする体制も構築されていません。
今回の事故は、日本における原子力政策にとどまらず、世界における原子力政策への影響も非常に大きいでしょう。この事故に関する信頼に足る正確な情報、リスクを世界と共有することが求められていることも忘れてはならなりません。日本の原子力発電関係者は、今回の事故によって明らかになった影響、リスク、教訓などの知見を国際的に共有する義務があります。現状の日本の原子力発電システムを管理している体制では、この点でも大いに心許ない印象です。
私自身、原子力発電システムを必ずしも否定しているわけではありません。しかし、今回は原子力発電所をめぐる客観的な情報、評価に関する体制の問題、その他、立地推進における地元のコミュニティとのさまざまな問題なども考えると、少なくとも現体制に安心して原子力発電システムを任せることはできないということは、広く合意を得られているでしょう。