アメリカのIT事情

夏休みが終わり、今日から会社が始まる。
休みの間、一週間ほどニューヨークとワシントンDCに行ってきた。
海外を旅行しても、現地の人と知り合うような機会はあまりないし、観光地や観光客向けのレストランや店を巡っていると、観光客ばかりを目にして、実際にその土地で暮らしている人を目にすることは少ない。しかし、現地に行くのだったらその土地に住んでいる人の様子も見てみたいと思う。そんなこともあって、なるべく地下鉄などの公共交通機関を使って移動して、まわりの人を観察して楽しんでいる。
今日は、アメリカのITについて書こうと思う。「アメリカのIT事情」という大きな題名をつけてしまったけれど、あくまでも街中で、しかも、ニューヨークとワシントンDCというアメリカのなかではかなり特殊な都市を数日間観察した結果である。
地下鉄のなかでは、日本と同様に、本や雑誌を読んでいる人は少なく、スマートフォンをいじっている人が多い。日本ではほとんど普及していないけれど、特にビジネスマン風の人を中心としてBlackberryを持っている人もかなり見かける。遠目ではiPhoneAndroidの区別はあまりつかないので、どの位の比率かはよくわからない。だいたい、スマートフォンのうち、Blackberryが3割、残りがiPhoneAndroidか、という感じだろうか。いわゆる旧来の携帯電話を持っている人もいるけれど、少数派になっている。
Washington Postに新型のBlackberryのレビュー記事がでていたが、否定的なトーンだった。iPhoneAndroidに比べると予測入力の精度が低いことが問題だという。新型のBlackberryは、かつてヒットしたモデルの外観になるべく似せて、機能は向上させているという。固定的なBlackberryファンには歓迎されるだろうけれど、新たなシェアを獲得するのは難しそうである。
GoogleMotorolaの携帯部門を買収して、自らスマートフォンを販売するという。個人的には期待しているけれど、大きな成功はしないだろうと思う。AppleGoogleを比べると、Appleの方が圧倒的にcoolな製品を作っている。GoogleMotorolaがかっこいいスマートフォンを作れるとはとても思えない。もし、生きる道があるとすれば、ビジネスユーザーが使っているBlackberryのシェアを奪うような、PCで言えばかつてのThinkPadのようなcoolではないけれど、実用的なスマートフォンを作ることだろうと思っている。いまのスマートフォンはおもちゃっぽくてあまり好きではないので、それと対極にあるような製品を作ってくれることを望んでいる。しかし、多分売れないし、日本に入ってこない可能性も高いように思う。
意外だったのはKindleを読んでいる人をほとんど見かけなかったことだ。Kindleで本を読んでいるのは、大学院生風のインテリがほとんどで、一般の人に普及している様子はなかった。上にも書いたけれど、スマートフォンをいじっている人が多数派だが、Kindleを持っている人より紙の本や雑誌を読んでいる人の方が圧倒的に多い。
アメリカの二番目の規模の書店のBordersが倒産して、閉店セールをしているのを見かけた。商品だけではなく、店の什器も投げ売りしていた。当然、リアルの書店が倒産するのはamazonとの競争に負けたからだけれども、必ずしも電子書籍の普及が原因という訳ではないようにも感じた。もちろん、スマートフォンで読書をしている人も多いのかもしれないけれど。
私自身、家のなかに本が積み重なっているので、電子書籍が本格的に普及してくれるとうれしいけれど、最近はamazonから本が届くのが早くなっているし、紙の本は読みやすいので電子書籍が必須とも思っていない。amazonが日本でも電子書籍の販売を始めない限り、本格的な普及はしないだろうし。
最近、日本でもFree Wifiの喫茶店が増えつつあるけれど、ニューヨークやワシントンDCはかなり普及率が高い。つれあいがiPadを持っていったので、Free Wifiを試してみた。ホテルでは快適に使うことができたけれど、喫茶店ではなかなか接続できなかったり、スピードが遅かったりして、必ずしも快適に使うというところまでは至っていない。しかし、Free Wifiのある店、駅、空港などでPCを開いている人は多く見かけた。
これも印象だけれども、Macのシェアがかなり高いように見えた。ビジネスマン風の人が使っているPCは黒いWindowsマシンが大部分だけれども、個人で持っているという雰囲気のPCは、大げさに言えば大部分がMacBookだった。まだ、MacBookAirはあまり見かけず、昔のMacBookを使っている人が多かった。いわゆるNetBookを使っている人はほとんど見かけなかった。もちろん、iPadを持っている人もいる。
Kindleを見かけなかったと書いたけれど、携帯ゲーム機を持っている人もほとんど見かけなかった。空港や飛行機のなかでゲームをしている子供は、たいていスマートフォンiPadを使っていた。たまにPSPを持っている人がいたけれど、DSはまったく見かけなかった。任天堂の株価が下がっているようだけれども、もう携帯ゲーム機のフルモデルチェンジはないかもしれない。もしあったとしても、特定のゲームをどうしてもプレイしたいというごく限られたユーザー向けの商品になるのだろう。
また、Washington Postに、現在のIT業界での巨人たちの競争についてまとめた記事が乗っており、なかなか興味深かった。その記事では、Apple, Facebook, amazon, googleを四社を取り上げ、1990年代のMicrosoft, IBM, Appleの競争と対比していた。
Microsoftは過去の遺産に頼っていて、新しい製品、サービスではまったく成功していないから、もはや現代的な企業ではないのだろう。IBMはコンシューマー市場から早々に撤退した。HPがIBMを目指そうとしてPC部門を切り離そうとしているけれど、IBM経営判断の速さと徹底ぶりはたいしたものだと思う。その中で、1990年代の競争では最も劣勢だったAppleがまだ現代的な企業として生き残っているというのが意外であり、また、興味深い。
あと、日本に住んでいるとFacebookが他の三社と肩を並べる存在ということが意外であるけれど、googleよりも将来性があるのかもしれないと思ったりもする。インターネットの世界では、マネタイズが難しい。googleも、さまざまなサービスを提供しているけれど、広告という形でしたマネタイズできていない。その点、Appleは顧客を自分の提供するサービスの環境のなかに囲い込むことでうまくマネタイズしている。Facebookの強みは、インターネットの中で最大の顧客を囲い込んでいることである。googleのようにオープンにサービスを提供するよりは、マネタイズという意味では可能性を感じる(ただし、あくまでも現段階では「可能性」だけれども)。
しかし、個人的には、特定の企業が提供する環境に取り込まれてしまうことは気持ちが悪い。これからもインターネットの世界ではさまざまな企業が現れ、主役が交代していくだろう。その時、ある環境に深くコミットしすぎて別の環境に移行するのが難しくなるのは避けたいと思う。
最近、PCはiMacだし、iPodで音楽を聴いていて、徐々にAppleの環境に取り込まれつつある。なるべくiTunesで音楽を買わず、CDで買ってデータに変換していたけれど、ついつい便利さに負けてiTunesで買うようになってしまうことが増えてきた。CDで買っておけば、iPod/iTunesの環境から切り替えるのは簡単だけど、iTunesで買った音楽は他の環境に乗り換えるのが難しくなる。
今度iMacを買い換えるときは、まったく別の環境に乗り換えるという意味で、chrome OSで動くただ同然のnet bookにするのもおもしろいかなと思っていたりする。しかし、その頃には、PCもchrome OSもGoogleも無くなっているかもしれないけれど。