口蓋扁桃摘出術体験記

先週の月曜日に「口蓋扁桃摘出術」という手術を受けてきた。
ここ数年、扁桃炎が慢性化しており、たびたび扁桃腺が炎症を起こし、熱発するようになっていた。医師からの勧めもあり、その原因となっていた扁桃を切り取る手術を受けたのである。
手術を受けるにあたって、いろいろな方の体験記を読ませていただき大変参考になった。おそらく、手術の予後、特に不安に感じることが多い喉の痛みについては、個人差も大きいと思う。だから、より多くの体験記を比較することに意味はあるだろう。
この体験記はひとつの事例として参考にしていただければと思う。

  • 扁桃炎の慢性化

上記の通り「口蓋扁桃摘出術」を受けることを決意したのは、扁桃炎が慢性化していたからである。
いつから扁桃炎になるようになったかははっきりしない。以前からたまに喉が痛くなり熱発することはあった。風邪かと思い、特に医師の診察も受けず、市販の風邪薬や解熱剤を飲んでいた。おそらく、そのような熱発のかなりの部分は扁桃炎だったのだろう。
医師の診察を受けて扁桃炎ということに気がついたのは3年前ぐらいだろうか。virusが原因の風邪と細菌が原因の扁桃炎では治療法が異なる。細菌が原因の扁桃炎では抗生物質が効果的だから医師の診察を受け、抗生剤を処方してもらうべきだ。扁桃炎に限らず、自分では風邪だと思っても実は違う病気で、有効な治療法があるという場合もあるだろう。あたり前のことだが、身体の不調を感じたら一応かかりつけ医の診察を受けることは意味がある。
それ以来、喉に痛みを感じるようになったら医師の診察を受けるようになった。そうすると、年に数回は扁桃炎になっていることに気がついた。年々症状が重くなり、頻度も増えていった。この1年では、40℃ぐらいまで熱が上がり、そうなると1週間ほど会社を休まざるを得なくなる。熱が下がっても1か月ぐらいは咳がつづき、身体がだるいという状況が続いた。このような熱発が年に3〜4回ぐらい起きるようになった。
このように繰り返し扁桃炎が起き、熱発する状態を扁桃炎の慢性化と呼ぶようだ。扁桃に細菌が常住するようになり、抵抗力が低下すると炎症を起こす。私は耳鼻咽喉科の医師から年に4回ぐらい熱発するのであれば、扁桃を切除する手術を受けたほうがよいと勧められた。

  • 手術の決意

扁桃炎が慢性化することで、会社員としての仕事にも支障が生じ、上司、同僚にもずいぶん迷惑をかけることになった。また、40℃の熱発はかなり苦しいし、炎症している喉もかなり痛い。最後の頃は抗生剤の点滴を受けるようになっていたが、恒常的に抗生剤を大量に投与されることにも不安を感じていた。このため、扁桃を切除する手術を受けることを具体的に検討するようになった。
手術によって扁桃炎の原因が解消することは大きな魅力だった。扁桃は免疫機能が未発達の乳幼児の時期には病原菌の侵入を防ぐ機能を果たすが、成長してからは切除しても問題はないらしい。
一方、気になったのは、手術の際に全身麻酔をかけるため一定のriskがあること、術後の痛みがどの程度長引くのかということだった。痛みについては個人差がかなり大きく、医師も確たることは言えないらしい。このため、Internet上にある体験記を参考にさせてもらった。元モーニング娘。保田圭の体験記はわかりやすい。(http://ameblo.jp/kei-yasuda/entry-10350616889.html)
手術後、痛みがずっと続くのであれば別だが、いくら激しい痛みがあったとしても一時的なものであれば、長い目で見れば扁桃炎から解放されることのmeritの方がはるかに大きいと考え、手術を受けることを決意した。

  • 病院探し

手術を受けること、全身麻酔を受けることがはじめてだったので、それに対する漠然とした不安があった。
父親をはじめ親戚に医師がいるので、どの病院で手術をうけるのがよいのか相談したり、扁桃炎の手術の症例数などを調べてもらったりした。「口蓋扁桃摘出術」という手術自体は比較的かんたんなもので、この手術を専門としてきわめるというものではなさそうだということ、比較的若い医師が担当することが多いということがわかってきた。
最終的には、施設が整った総合病院と耳鼻咽喉科の専門病院が候補になった。手術そのものの症例数では耳鼻咽喉科の専門病院の方が多いが、どうも手術そのものより全身麻酔のriskの方が大きいと思われたので、その対応が充実している総合病院の方がよいだろうという結論に至った。
最終的に父親がかつて勤務していた総合病院で手術を受けることに決めた。私自身もその病院に扁桃炎で入院した経験があり、知り合いもいる安心感が大きかった。この選択には私の個人的な事情(父親の紹介を得ることができる)がある。通常は、かかりつけの耳鼻咽喉科の医師(扁桃炎が慢性化していれば必ず耳鼻咽喉科には通院しているはず)と相談するのがよいだろう。

  • 手術に向けた診察

その総合病院の耳鼻咽喉科の専門医の先生を父親に紹介してもらい、手術に向けた診察を受けた。
これまでの扁桃炎の病歴を説明したところ、簡単に扁桃を摘出した方がよいという結論になった。1か月後、ちょうどゴールデンウィークの直前の手術日が空いていて、会社の休みを最小限にできる日程を選ぶことができた。
手術に向けた説明を受け、想定される副作用が書かれた合意書を受け取った。扁桃の摘出について調べるなかで疑問に思っていたことを確認し、想定と違っていないことがわかった。診察後、手術を受けるため胸部のレントゲンと血液検査を受けた。
不安に感じたのは、当日に扁桃に炎症があると手術が延期になるということだった。仕事を考えると最適な日程だから、延期はしたくなかった。しかし、扁桃の炎症はよく起きていたから、手術前の1か月を慎重に過ごすとしても炎症が起きる可能性はあると思っていた。

  • 扁桃の炎症

案の定、手術の2週間前に喉の痛みを感じ、すぐに執刀する先生の外来に駆けつけた。
熱発はしていなかったけれど、喉を見ると炎症を起こしており、もし、これが手術の日だったら延期することになっていたとのことだった。
抗生剤を処方してもらった。幸いなことに3〜4日で炎症は治まった。

  • 入院

手術は月曜日の朝だったので、入院は土曜日だった。
土曜日の午前中に耳鼻咽頭科医、麻酔医、看護師がやってきて、手術と入院生活について説明があり、合意書を提出した。ひと通り説明を受けると、外出許可を得る。日曜日の夜までに病院に戻ればよい。手術が火曜日以降であれば入院は前日になるのだろう。
土曜日の夜は、手術をするとしばらくは食べ物の制約が多いから、鰻をいただく。

  • 手術

日曜日の夕方に入院の荷物一式を持って病院に戻る。この日は明日の手術に向けて寝るだけである。
月曜日の朝、起床して体温、血圧の計測があり、問題はなかった。執刀する先生がやってきて喉の様子を見る。炎症はなく、予定通り手術をするとのことで、安心をした。この日は朝から飲食はしない。
手術は9:00からで、8:30頃から準備をする。といっても、手術着に着替えるぐらいである。予定の時間のしばらく前になると、看護師の案内で手術室まで歩いて行く。
手術室に入り、手術台の上に寝る。電気毛布をかけられて身体が暖められる。心電図、血圧計が繋がれモニターが始まる。点滴が繋がれ、麻酔薬が注入されるとすぐに意識を失ってしまう。
目が覚めた時は手術室の脇の部屋でストレッチャーに乗っていた。ぼんやりした時間がなく、スイッチを入れたように目が覚めた。その瞬間は喉にはほとんど痛みがなかった。
先生がやってきて、ガラス瓶に入った二つの扁桃を見せてくれた。4〜5cmぐらいあるように見えた。これだけの大きさのものを切り取ったのだから、傷口もそれなりに大きいだろうと少々不安も感じた。執刀医によれば、扁桃の癒着もなく、出血もほとんどなかったという。手術当日は食事はでないのだが、プリンみたいなものだったら買って食べてもいいとのことだった。

  • 入院生活と喉の痛み

手術日と翌日の火曜日は脱水症状防止のための点滴、水曜日までは抗生物質の点滴をした。
結局、あまり空腹を感じなかったこともあり手術日は食事はしなかった。翌日から、ほぼ離乳食のような食事が出てきた。刺激がないように薄味というかほとんど味がない。
月曜日と火曜日は、あまり痛みが強くなく、これなら1週間もせずに快復するのではないかと勝手な期待をしてしまった。つばを飲み込む時、飲み物を飲む時、食事が喉を通る時にはある程度の痛みはあったが、扁桃炎での喉の痛みより軽いぐらいだった。喉よりは、手術の時に口の中に器具を入れたためか、口の中に細かい傷があるようでそちらの方がしみるぐらいだった。看護師さんに頼めば頓服の鎮痛剤(ロキソニン)を持ってきてもらえたのだが、頼む必要もないぐらいだった。
しかし、水曜日頃から喉の痛みが強くなってきた。それまでは傷口がヒリヒリするような痛みだったけれど、やや鋭い痛みが走るようになってきた。喉の奥だけではなく、耳の奥、口全体が痛むようになった。この耳の奥などの痛みは、その部位に問題がある訳ではなく、放散痛というらしい。
それまではなんとか食事をしていたけれど、離乳食程度の食事でも痛みで食べるのが辛くなった。食事の前に鎮痛剤をお願いして痛みが治まったタイミングでなんとか半分ぐらいを食べるという状態になった。
痛みとともに、炎症になっていたため37℃ぐらいの微熱がでるようになっていた。
入院生活は時間があまると思っていたのでKindleを持ってきたけれど、喉の痛みと微熱でなんとなく調子が悪く、本を読む気力が湧かず、ほとんどベッドで丸まっていた。咳がでるようになり、咳をすると喉が痛む。なぜか、仰向きで寝ると鼻から息をうまく吐くことができず口呼吸になってしまう。そうすると喉が乾燥して痛みがひどくなる。
しかし、予定通り、点滴は水曜日で終了し、木曜日の朝に退院した。

  • 自宅での静養生活

木曜日から自宅での静養生活が始まった。
基本的には病院と同じように過ごし、喉の粘膜が快復するのを待つ。流動食を食べ、点滴はしないが、抗生剤と痛み止めを飲む。喉の痛みの状況に応じて頓服の鎮痛剤(ロキソニン)を飲む。38℃以上の発熱、出血が止まらない場合には病院に連絡することになっていた。
退院後、痛みは改善せず、むしろ鋭くなっていった。また、あいかわらず微熱があるため全般的な体調は悪い。ロキソニンを飲むと一時的に痛みが治まり熱が下がるが、薬効が切れると元に戻る。痰に血がまじるようになり、小さな血の塊が出るようになってきた。喉は敏感になり、ちょっとした埃で咳き込んでしまう。しかし、病院に連絡するほど調子が悪くなるわけではない。1週間ぐらいで痛みが治まるのではないかと期待していたから、なかなか症状が改善しないことにfrustrationが募った。
結局、手術から1週間経った日曜日、月曜日頃がいちばん調子が悪かったように思う。連休は火曜日までで、水曜日から会社に出社できるのか不安を覚えるようになった。

  • 快復に向けて

おそらく、喉のなかの傷にかさぶたができて、またそれが剥けるということを繰り返しながら薄皮がはっていったのだろう。火曜日になると痛みが治まりはじめた。それ以降は日一日と快復していった。
水曜日にはぶじに出社した。手術以来、外出は退院の時の自宅への移動だけで久しぶりだった。木曜日には先生の外来に行った。おおむね順調に快復しているとのことだった。
先生によると、もう何を食べてもよいという。食事も徐々に固く、味のあるものを食べられるようになった。
この日記を書いているのは土曜日だが、まだ喉には多少の違和感がある。お酒はまだ解禁していないし、揚げ物は食べていない。今の夢は、天ぷらそばでビールを飲むことである。