ヒラリーの悲しみ

夫が好きで好きでしょうがない

BSで各国のニュースを紹介する「キャッチ!世界のトップニュース」という番組で、国際政治学者の藤原帰一が月1回さまざまな国の映画を紹介するコーナーがある。映画の選択もいいし、国際情勢、社会情勢を絡めた解説もわかりやすく、おもしろくて、毎回楽しみにしている。

ニューズウィークのウェブサイトで、藤原先生がアメリカ政治を映画を絡めて紹介する記事が載っていた。そのなかで、ヒラリー・クリントンに関して書いている部分が非常に腑に落ちたので引用したい。

夫が好きで好きでしょうがない、この人を大統領にするために何でもする。しかし、この夫には女性がたくさんいる。事もあろうに子供まで生んだ人もいる。そんなふうに自分に傷ついて、これで終わりだろうと思うのだけど、もちろん終わりじゃない......。

…「この男のために私は人生を捧げてきた。そんなことをする甲斐のある人じゃない。女の子を追い掛けること以外、この人の頭の中には何もない」と。そうすると、私の人生は何だったんだろう、となる。断片的な証拠があるだけですが、1人娘のチェルシーはお父さんに苦しめられたヒラリーに向かって「お母さんが政治家になったらいいじゃない」と言ったといいます。ヒラリーが上院議員に立候補する前か後か分かりませんが。チェルシーにしたがって、彼女は夫を応援する人生をやめて自分が政治家になる人生を選ぶことになります。

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大統領を目指す茨の道

最初は、ビルからプロポーズをして、一回はヒラリーが断っているというが、やっぱりヒラリーの方がビルに惚れているんだろうなぁと思う。まあ、ヒラリーとビルのほんとうの関係など私にわかるはずもないけれど。

大統領になったビル・クリントンという人格的に破綻しているところもある天才的な政治家と結婚したことは、ヒラリーのキャリアのプラスになったところもある。彼との結婚がなければ大統領選挙を目指す位置までたどり着くことは難しかったかもしれない。しかし、大統領選挙を戦う上では、ビルと結婚したことが大きなマイナスにも働いている。

ビル・クリントンが大統領任期を終えた後、ヒラリーは上院議員として政治家としてのキャリアを積み、大統領選挙を目指す。しかし、最初の挑戦では民主党予備選挙バラク・オバマに敗れてしまう。今にして思えば、このときがヒラリーが大統領になる最大のチャンスだったけれど、バラク・オバマというあまりにも強力な競争相手と同じ選挙を戦うことになったのは不運としか言えない。

 最近のアメリカの大統領選挙を振り返ると、ワシントンで長いキャリアはマイナスになることがよくわかる。ワシントンでのキャリアが長い候補の方が勝ったのは、1988年の父親の方のジョージ・ブッシュとマイケル・デュカキスの選挙までさかのぼる。そして、ジョージ・ブッシュは1992年の選挙では、ワシントンのアウトサイダーだったビル・クリントンに敗れてしまう。

ヒラリーは大統領を目指して、上院議員、国務長官のキャリアを積み上げるが、結局、それが大統領になるためにはプラスの作用を及ぼしていない。1992年はワシントンのアウトサイダーだったクリントン夫妻は、2016年にはすっかりインサイダー中のインサイダーになってしまう。そして、国務長官時代のメール問題が今回の大統領選挙の最後までつきまとった。

ヒラリーの悲しみ

ビルの影を払い除け自己実現するには、やはり自分の力で大統領になるしかなかったのだろう。

オバマに敗れたときは、それでもまだ諦めがついたのだと思う。彼は高邁な理想を演説で訴え、アメリカ初の黒人大統領になったのだから。また、彼女自身もまだ大統領になるチャンスが残されていた。

しかし、このタイミングに比べ、8年後はさまざまな不利な条件が増える。8年後は大統領候補者としては高齢になってしまう。2期以上任期をまっとう大統領の後に、同じ政党の候補者が当選することは少なく、やはり1992年ジョージ・ブッシュまでさかのぼる。そして、8年間ワシントンでキャリアを積むことで、よりインサイダーのイメージが濃くなってしまう。

オバマは、マイノリティからの熱狂的な支持、民主党の伝統的な基盤に加え、今回の選挙戦ではバーニー・サンダースを支持した層からも支持されていた。それに比べると、ヒラリーの支持者は民主党の伝統的な基盤(労働組合は弱体化していた)とフェミニストが中心で、オバマほどの広がりがなかった。8年前大統領候補者になれたら、もっと広範な支持を受けられただろう。

今回は敗れた相手があのドナルド・トランプだった。そして、もう次のチャンスはない。ヒラリーの悲しみの深さはいかほどだろうかと、同情する。ヒラリーは、茨の道を歩んできた人だと思う。

トランプの内心は?

ヒラリーは本心を隠しているというイメージがあったようだけれども、私から見ると何を考えているのかがわかりやすいと思う。

ドナルド・トランプは、あけっぴろげのようで、実のところ何を考えているのかよくわからない。そもそも、なぜ大統領選挙に出たのか、大統領になって何を実現したいのか、わかるようでよくわからない。

トランプに関する報道の多くは、彼の「演技」を誇張して伝えるものが多く、彼の内心、肉声があまり聞こえてこないように思う。彼の内心に触れるレポートを読んでみたいと思っている。