誘拐犯に身代金を支払うべきか

Podcastによるジャーナリズム

アメリカのPodcastにはおもしろい番組が多く、英語学習も兼ねていくつか定期的に聞いているものがある、という話をこのブログにも書いたことがある。

yagian.hatenablog.com

私の聞いているPodcastは主にジャーナリズム系のものだが、着眼点がユニークで、ていねいに取材している番組が多く、Podcastによるジャーナリズムが盛り上がっている印象がある。日本語の世界では、これに相当するものは見当たらないように思う。

Planet Money:  Episode 792: The Ransom Problem

そのようなPodcastのひとつに、"Planet Money"という番組がある。お金にまつわる話題を取り上げ、インタビューを中心として20分前後のストーリーにまとめている。

ちょっとしたユーモアも交えた話題も多いが、最近聞いたエピソードは、テロリストによる誘拐に対して身代金を払うべきか、というシリアスなテーマだった。これまで自分が聞いたことも考えたこともない視点が示されていて、興味深かった。

www.npr.org

ソマリアで誘拐されたアマンダ・リンダウトのケース

このエピソードでは、まず、ソマリアで誘拐されたカナダ人ジャーナリストのアマンダ・リンダウトのケースが、彼女と母親のインタビューを交えながら紹介される。

ソマリアではなかば営利目的の外国人の誘拐が日常化している。カナダは政府として誘拐犯に身代金を支払わない方針であり、また、彼女の両親は貧しかったため、彼女自身は身代金が支払われることなく、解放されることは絶望的だと考えていたようだ。

彼女の母親には誘拐犯の関係者からの連絡が頻繁にあったが、身代金を払えるあてもなく、絶望していたという。しかし、カナダ政府から、政府として身代金を支払うことはしないが、個人として寄付を募り、身代金を払うことは妨げない(本来は法に抵触する行為だが)という連絡があった。結局、多くの寄付が集まり、身代金を支払って彼女は解放されることになった。

身代金を支払う国、支払わない国

このようなケースで、身代金を支払う国、支払わない国があるという。

アメリカ、カナダ、イギリスなどは身代金を支払わない政策を採っている。身代金を支払うことで将来の誘拐を誘発し、また、誘拐犯の活動資金になるから、というのがその理由である。一方、イタリアやスペインは身代金を支払って人質を取り戻している。

このポッドキャストのキャスターが「興味深い」と語っていたが、アマンダ・リンダウト自身は、身代金を支払わない政策を支持しているとインタビューで答えていた。

日本は、かつてダッカ日航機ハイジャック事件で、日本赤軍の要求を飲み、身代金を支払い、収監されていた日本赤軍のメンバーを「超法規的措置」として引き渡したことがある。現在は、真相は必ずしも明らかではないが、身代金を支払わない政策を採っているものと思われる。

誘拐犯に身代金を支払うべきか

この番組を聞く前は、当然、身代金は支払うべきではないし、また、それが国際的な常識になっていると思っていた。しかし、身代金を支払う国、支払わない国のそれぞれが存在するということを聞き、意外だった。

また、身代金を支払う国、支払わない国でのこの種の誘拐の発生状況の研究があるという。詳細までは番組のなかで紹介されていなかったけれど、誘拐の発生率はあまり変わりがなく、誘拐後の殺害率はとうぜんならが身代金を支払わない国が二倍程度になっているという。

アメリカでも、オバマ大統領は、国として身代金を支払うことはないが、家族などが身代金を支払うことを妨げないという政策に転換したという。

このエピソードを聞き、身代金を支払うべきではない、という政策の正当性について確信が揺らいできた。たしかに、国が身代金を支払わなくても、関係者が何らかの形で身代金を支払うケースを完全に妨げることは難しい。身代金の支払いを完全に禁止できれば誘拐を抑止できるが、実際には身代金を支払う人がおり、誘拐が頻発している状況で、身代金を支払わない政策をつらぬくことが国民の安全を確保しているのか定かではないだろう。実証研究でもそのような結果がでているようだ。

うむ、難しい。