TED Radio Hourを聴く
このブログで、アメリカのPodcastの話をよく取り上げていると思う。
英語のリスニングの練習という意味もあるが、それ以前に内容が興味深い番組が多くあり、楽しんで聴いている。
そのなかに"TED Radio Hour"という番組がある。この番組、毎回テーマを設定して、そのテーマに関連するTEDの講演のさわりと、講演者のインタビューで構成されている。もし、興味がわけば、TEDの講演を聴いてみてください、という流れになる。
今回は"How Art Changes Us"というテーマである。いちばん最初に紹介されたTitus Kapharというアフリカ系アメリカ人の画家の話に惹きつけられ、TEDの講演を聴いてみた。
www.npr.org
Titus Kaphar「アートは歴史を「修正」できるか」
Titus Kapharは、アメリカの伝統的な絵画に描かれたアフリカ系アメリカ人に着目した作品をつくっている。
文章で説明をするのが難しいので実例を見てもらいたい。白人の肖像画の背景にアフリカ系の使用人が描かれている。元の絵ではあくまでも背景の一部の扱いである。しかし、Titus Kapharはその彼らも歴史を背負った人間である、ということ表現するために、彼らに視線が向くように「修正」を施した絵を描く。
TEDの講演のなかでは、アフリカ系の人が背景に溶け込むように描かれている絵の複製を作り、彼以外の白人を白く塗りつぶすというパフォーマンスをしている。
合衆国憲法「修正条項」と政治的に「不適切」な銅像への対応
この講演のなかでTitus Kapharは、過去の歴史は消し去ることはできない、と言っている。合衆国憲法の修正条項(amendment)は、修正前の条項と併置されている。そのことで、その当時のアメリカ合衆国と現在の修正されたアメリカ合衆国が対比して示されているのだ、という。
彼の主張は納得できる。
最近、アメリカでは、黒人差別をしていた人の像の扱いに関して議論が高まっている。Titus Kapharは、そのような像を引き倒すべきではないと語っている。そのような像の隣に新しい像を建てて、新しい意味を与えるべきだと主張する。合衆国憲法の修正前の条項と修正条項が併置されているように。
ポリティカル・コレクトネスの皮相さとTitus Kapharの「修正」の深み
以前、クリント・イーストウッドが ポリティカル・コレクトネスに疑問を表明していることについて、ブログを書いたことがある。私自身も、ポリティカル・コレクトネスについてずっと違和感を感じている。
ポリティカル・コレクトネスの主張は、皮相的にも関わらず、独善的で不寛容だという印象を拭えない。これに比べるとTitus Kapharが言う「修正(amend)」ははるかに深みがあり、感銘を受けた。
バーミヤンの大仏の再建について
似たようなことをバーミヤンの破壊された大仏の再建問題について感じている。
仏教では永遠なものはない、と教えている。当然、形のある仏像は永遠のものではない。破壊された大仏の後の空間は、まさに仏教のその教えを表現していると思う。その真実から目を逸し、その空間に再度大仏を建立することが、仏教の教えに則ったことなのか、強く疑問を感じる。
かつてそこには大仏があり、そして、それが破壊されたという歴史がある。そのことを表現する空間、それこそがいまありうべきバーミヤンの大仏の姿なのではないだろうか。タリバンは、はからずも仏教の教えを実現してしまったのだ。