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ポートランドはおいしい

アメリカの食の新しい潮流

今年の夏休み、オレゴン州ポートランドに一週間滞在した。

アメリカというと、食事がおいしいというイメージは乏しいと思う。しかし、最近、アメリカの食事情は大きく変化しつつあり、その変化の最先端、中心となっているポートランドで新しい食の潮流を味わってきた。

Tugboat Brewing Company★★★★☆

ポートランドの空港からホテルに着き、シャワーを浴びてひとやすみをしたあと、さっそくクラフトビールを飲みにビアバーに繰り出した。

西海岸を中心として、アメリカではクラフトビールを作るマイクロブリューワリーが増え、今ではブームを超えてすっかり定着している。ポートランドは、そんなマイクロブリューワリーが集まっている都市のひとつだ。

クラフトビールに限らず、同じブランドのビールでも違う味に感じらることが多い。たまにごくふつうのビール(例えば、「一番搾り」の生ビール)がやけにうまく感じられることがある。逆にやけに水っぽく気が抜けているように感じる時もある。もちろん、気候や体調の影響もあるのだろうけれど、ビールはナマモノだから、品質が不安定なのだろう。日本でもアメリカのクラフトビールを飲める店が増えてきたけれど、ブリューワリーのすぐ近くで飲むビールは新鮮で品質が保たれているためか、おいしく感じる。

この店は、腕にタトゥーが入ったおばさんが仕切る素朴な雰囲気で、地元の常連さんが集っている様子。10ぐらいタップがあって、Tugboat Brewing Companyで作っているビールと、そのほかオレゴンとカリフォルニアのいくつかのブリューワリーのビールが飲める。

チーズと黒豆がたっぷり乗ったナチョスをつまみに、Tugboatのビールを2杯ほどサクッといただく。想像していたよりずいぶん安くて、近所にこんなお店があったら、常連になりそうだ。

The Portland Farmers Market at Portland State University★★★★★

翌朝、朝食を食べるために、ポートランド州立大学で開催されているファーマーズマーケットに行った。

アメリカの新しい食の潮流は、「オーガニック」と「地産地消」がキーコンセプトになっている。ポートランドでは、曜日ごとに場所を変えてファーマーズマーケットが開催されていて、この「オーガニック」と「地産地消」運動の核となっている。ポートランド州立大学のファーマーズマーケットは、毎週土曜日に開催され、ポートランドでは最大規模のようだ。

最近、鎌倉でも「鎌倉野菜」をブランド化して、地産地消を進めている。鎌倉駅からほど近くに鎌倉市農協連即売所があり、そんな野菜を農家から直接買うことができる。しかし、このポートランドファーマーズマーケットは、規模、品揃えが圧倒的に違う。

今はベリー類が旬らしく、いろいろなベリーを並べた屋台がたくさんあった。おいしそうに見えたので、小粒のイチゴを買ってみた。完熟したイチゴはおどろくほど甘く、やわらかく、口のなかですぐとろけた。

大きなバッグを肩にかけて買い出しをしている人をたくさん見かけた。たしかに、ポートランドに住んでいたら、毎週末通ってしまうかもしれない。

ポートランドにも、オーガニック食品を扱うスーパーマーケット「ホールフーズマーケット」があるけれど、このファーマーズマーケットはかなり強力なライバルだと思う。

Higgins Restaulant & Bar★★★★☆

夕食には、地元のオーガニック農産物を活かした料理を作る老舗のレストラン、Higginsに行った。

ポートランドの町自体がいい意味で素朴な田舎風ということもあり、この町のレストランやバーもいい意味でおしゃれ過ぎないところがいい。この店も気張っておらず、落ち着いた雰囲気だった。ウェイターもベテランな人が多く、客層の平均年齢も高い。

オレゴン産のワイン、泡、白、赤を一杯ずついただきなから、ごくふつうだけど、おいしいアメリカ料理を堪能した。

Heart Coffee★★★★☆

郊外にドライブするとチェーンのファーフトフードの店舗は見かけるけれど、ポートランドの中心市街地ではほとんど見かけなかった。マクドナルドがまるでない都市、というのも珍しいかもしれない。その代わり、スターバックスは石を投げれば当たりそうなぐらいどこにでもある。

ブルーボトルコーヒーが日本に出店して以来、東京でもサードウェーブコーヒーのカフェが増えてきた。ポートランドでは、ブルーボトルコーヒーはないけれど、さまざまなサードウェーブのカフェがあり、スターバックスよりおいしいコーヒーを手頃な値段で提供しているから、競争は厳しいのかもしれない。

シンプルな内装の小さなカフェだけど、ポートランドを代表するカフェの一つで、行列ができている。ハウスブレンドのコーヒーを頼んだけれど、複雑な、いままで飲んだことがない味わいだった。

考えてみれば、ボストンで紅茶を海に捨てて以来、アメリカ人はコーヒーを大量に飲み続けてきたんだからそろそろおいしいコーヒーを飲んだっていい頃かもしれない。

Pallo Bravo at Pine Street Market★★★★☆

この日は、まだ時差の調整ができていなくて、昼食の時間に食欲がわかず、午後の早い時間に昼食兼夕食をかんたんに食べられるお店を探した。倉庫をリノベーションして作った新しいフードコートを試してみることにした。

フードコートと言っても、ふつうのモールにあるようなファーフトフードと屋台が集まったものではなく、現代アメリカの「おいしい」料理を出すお店が集まっている。

ハッピーアワーで、なんとクラフトビールが(小さいグラスだけど)一杯1ドル。ホットサンドウィッチに挟んであるグラスフェッドの牛肉がしっかりとした肉の香りがする。

半端な時間だったけれど、にぎわっていた。たしかに、フードコートでこれだけの料理が食べられれば、何も言うことはない。

Stumptown Coffee Roasters★★★★★

ポートランドのカフェのコーヒーはどこもハズレはなかったけれど、このお店のコーヒーがいちばんおいしく感じた。

比較する意味もあり、カフェに行くと、その店でいちばん標準的なハウスブレンドのコーヒーを頼むことにしていた。このカフェは非常に気に入って二回行ったので、一回目はハウスブレンド、二度目はカプチーノを飲んだけれど、どちらもとてもおいしかった。

サードウェーブのカフェでは、苦味や酸味よりはフルーティなあじわいのコーヒーが出てくることが多い。考えてみれば、コーヒー豆は果実だからフルーティなのが当然でもある。

Trifecta Tavern★★★★☆

この日は、コロンビア・リバー・ジョージ(コロンビア渓谷)にトレッキングに行ってきた。レンタカーを返してホテルでシャワーを浴びた後、ホテルからバスに乗ってこのレストランに行った。

この旅行中、モバイwifiをレンタルしてGoogle Mapを見ながら歩き、ドライブをしていたけれど、ガイドブック、地図、カーナビはもう不要だと思った。

旅行者として知らない都市のバスは、路線がわかりにくくて使いにくい。しかし、Google Mapで行き方を検索すれば、停留所の位置や時間も含めてわかりやすく教えてくれるから不安がなく利用できるようになった。

レンタカーにはカーナビは付いていなかったけれど、Google Mapのナビで、精度、情報量ともまったく不足がなかった。

このレストランは中心市街地から少し外れたところにあり、倉庫をリノベーションして、ダイナー風のしつらえにしてある。薪の窯でグリルする料理が中心で、ピザの一種のような料理(flatbreadという名前になっていた)とエビのグリルを頼み、やはりタップのクラフトビールをいただく。

アメリカのクラフトビールというとIPAが中心だけど、今回はあえてIPA以外のビールを飲んでいる。このお店の一杯目は、トレッキングで渇いた喉をピルスナーでうるおした。しみた。

Hair of Doc Brewing Company★★★★★

翌日、またレンタカーを借りて、今度はオレゴン州の太平洋岸までドライブをした。ポートランドからコロンビア川河口にあるアスターという町まで2時間弱ほどかかる。

滞在していた一週間、ポートランドはずっと天気がよく、快適だった。日中は30度を超えるけれど、乾燥しているので、風が日陰に入るとさわやかで、夜には20度を下回り寝苦しさはまったくない。太平洋岸は天候が悪く、日中でも20度を超えず、寒いほどだった。

日本を含め、夏、湿度が高くて暑い地域のビールは、やはり一気に飲み干せるようなタイプの味が多いように思う。

一方、アメリカのクラフトビールに多いIPAは独特の苦味と濃さがあって、蒸し暑いビアガーデンで一気に飲み干すには適さない。この気候にして、このビールの味があるんだと納得した。

このお店は、Hair of Dog Brewery Companyの直営店で、このブリューワリーで作っているビールをタップで提供している。

ここもかつての倉庫をリノベーションした店舗で、店内はシンプルなしつらえになっており、料理は手のかからないものが中心で、ビールを主役にしたお店だ。

注文したビールがすべて衝撃を受けるほどおいしく感じられた。ここのビールを飲めただけで、ポートランドに来た甲斐があったと思う。

おいしいコーヒーは、濃く淹れればコクと香り楽しむことができ、薄く淹れるとむしろ味の成分が繊細に感じられるようになる。それと同じで、このブリューワリーのビールは、スタウトはコクと深みがあり、ラガーは味を構成する要素のそれぞれが粒立っているようだった。

ツマミは、ハム、サラミ、チーズ、オリーブ、ドライフルーツの盛り合わせだったけれど、このブリューワリーのビールによく合っていて、このお店の人はビールをおいしく飲むということが実によくわかっている。

Mother's Bistro & Bar★★★★☆

アメリカのふつうの朝食、卵とベーコン(もしくはハムかソーセージ)とトーストとコーヒーの組み合わせ、が好きだ。旅行中、ここまではカフェでペストリーとコーヒーという朝食を食べていたけれど(おいしいから満足している)、アメリカに来たからには一回はがっつりとした朝食を食べたいと思い、ホテルの近くの朝食のメニューがあるレストランに行った。

ランチの時間の少し前の時間だったけれど、ほぼ満席で、素朴なダイナーを予想していたけれど、ずっと洗練されたレストランだった。

メニューふつうのアメリカ料理で、期待通りのアメリカンな朝食を食べることができた。付け合わせのソーセージとベイクドポテトが手作り感があっておいしかった。

アメリカンコーヒーを注文したので、大きめのマグカップに薄いコーヒーが出てきた。少し飲むとどんどん注いでくれる。日本の水とほとんど同じ感覚で飲んでいるのだろう。

ポートランドは、西部開拓時代に農民たちが幌馬車(馬ではなく、牛が引いていた)で移住した道、オレゴントレイルのほぼ終着点にあたる。移動中、きれいな水を得ることが難しく、消毒と味をごまかすために、コーヒーを淹れて水代わりに飲んでいたという。

どんどん注ぎ足されるアメリカンコーヒーは、オレゴントレイルで農民たちが飲んでいたコーヒーの伝統を引き継いだものかもしれない。

Case Study Coffee Roasters★★★★☆

不思議な名前のコーヒー店。

ここのお店でハウスコーヒーを頼んだら、エチオピアのウォッシュドだと説明してくれた。薄めだけど味わいがある、最近飲み慣れている系統のコーヒーで飲みやすかった。

ようやく時差も調整できて、ポートランドの町にも慣れたところで、もうこの旅行も終わろうとしているのが寂しい。

コーヒーをすすりながら、ポートランドで食べたもの、飲んだものに思いをめぐらし、ブログを書いていた。

 Bamboo Sushi★★★★☆

最近、海外旅行に行くと、一回はスシを食べるようにしている。世界各国で、スシはすっかり地元向けの食べ物として定着して、日本人の手から離れてさまざまに現地化している。どんな風にアレンジされたスシを食べられるか楽しみにしている。

海外のスシ屋では、東アジア系の風貌の店員を揃えているケースもあるけれど、この店はそんなこともない。より現地化の程度は高く、かつ、店のしつらえも、料理も洗練されていた。

最近では日本のスシ屋でもカリフォルニアロールが食べられることも多いけれど、ここはオリジナルのロールが充実している。地元で獲れた海産物を中心とした"The Local"というロールを食べた。ビンチョウマグロが入っていて、なかなかいける。

締めに"Okonomiyaki"を頼んでみた。薄くクリスピーに焼いたピザに近いものの上にキャベツが乗っていて、ちょっと辛めのマヨネーズベースのソースがかかっている。食べたことのない旅行中だけど、これはこれでおいしかった。

ポートランドはおいしい

ポートランドで食べ、飲んだものは、みなリーズナブルでおいしかった。お店は気取りなく素直においしいものを作り、それを好む地元の客が支えている、という好循環ができているようだった。

ポートランドの人口は約60万人。日本だと、静岡、岡山、鹿児島、松山などとほぼ同じ規模である。日本にも、ポートランドのような「おいしい」町はあるのだろうか。