反省がない

デイビッド・ハルバースタム『ベスト&ブライテスト』(サイマル出版)(amazon:4377302930)を読みながら、イラク戦争のことを考えている。
ジョージ・W・ブッシュとそのスタッフは、若い頃にベトナム戦争を経験しているはずなのに、どうしてこうも同じ落とし穴にはまるのだろうか。反省のなさが不思議なほどである。
問題には必ず解決策があり、適切な行動にすることによって解決できるという思考形態こそが、「ベスト&ブライテスト」と呼ばれる人々を「ベスト&ブライテスト」としており、そして、真に解決策が見いだせない問題に直面したとき、そのことこそが彼らを挫折させた、というのが『ベスト&ブライテスト』の教訓だと思う。
きわめて優秀だと言われているジョージ・W・ブッシュのスタッフも、J・F・ケネディとリンドン・B・ジョンソンのスタッフとおなじ道をたどっているように思う。
考えてみれば、9.11の後、テロリスト対策を「戦争」と定義したことが大きな誤りだったのではないだろうか。たしかに、9.11は衝撃的で被害は大きかったが、あれは戦争ではなくあくまでも犯罪であり、テロリストとは「戦争」をするのではなく取り締まるべき対象だったのではないか。
新左翼のテロリストが引き起こした事件で、最も衝撃的だったのは、よど号事件、あさま山荘事件日本赤軍テルアビブ空港事件だったと思う。これらの事件は衝撃的だったけれど、彼らの活動として行き詰まりの果てに起きたことだった。これ以降、活動も縮小することになった。
9.11は、イスラム原理主義過激派のテロリストが行き詰まりの果てに引き起こした事件ではないのか。
イスラム原理主義過激派のテロリストは、エジプトにせよ、サウジ・アラビアにせよ、それぞれの母国では、きびしい取り締まりにより十分な活動ができず、アフガニスタンに放逐された。赤軍派の一部が活路を見いだすために、中東に活動の拠点を移し、日本赤軍となったことに似ている。
日本赤軍テルアビブ空港事件によって、アラブの人々の共感を得たとしても、結局、彼らの活動は行き詰まっていったことと同じで、9.11によって、アル・カイーダの活動に新しい将来が開けたかといえば、決してそんなことはないだろう。
もちろん、アル・カイーダは自分の脅威をより大きく見せようとする。そして、米国も、彼らの脅威を強調することで戦争を拡大しようとしている。しかし、実態としての脅威は、どの程度なのだろうか。
そのような状況だとすれば、実際にすべきことは、地味であるけれど、アラブ諸国も含めて、世界各国政府が、イスラム原理主義過激派のテロリストに関する情報を共有して、きびしく取り締まりを進めることではないだろうか。彼らに共感したり、活用したりする国をなくし、共同して取り締まることが重要なのではないか。特に、アラブ諸国が積極的に情報を提供する状況を作り上げることができれば、彼らに逃げ場はなくなるはずだ。湾岸戦争の時は、アラブ諸国を含んだ多国籍軍を構成できたのだから、きびしい取り締まりのネットワークを形成することができないはずはない。