熊野古道の旅

先週末、つれあいの母、つれあいの妹、つれあいの女三人と私のあわせて四人で熊野古道を旅行してきた。

熊野に向かう

朝、羽田空港から南紀白浜空港行きの小さな飛行機に乗る。空から紀伊半島を見ると、いくえにも山が連なっていて、山が縦方向に高いだけではなく、横方向に深いことがわかる。
南紀白浜空港に着くと、南国の夏の香りがする。ここからレンタカーを借りて、中辺路の滝尻王子へ向かう。

滝尻王子と胎内くぐり

熊野古道は熊野三社を結ぶ参詣道である。そのなかでも、田辺から熊野本宮大社を結ぶ山中の道、中辺路が最も頻繁に使われ、古道らしい山道も残されている。今回の旅行では、駐車場のあるポイントでレンタカーを停めて、少し熊野古道を歩いてみることにした。
中辺路には王子と呼ばれる神社(といっても修験道と関わりが深いので神仏が混淆している)が点々とあり、九十九王子と呼ばれている。
まず、古い山道が残されているスタート地点にあたる滝尻王子周辺を歩くことにした。滝尻王子のすぐ近くには、熊野古道館という施設があり、ここの駐車場に自動車を停めることができる。
世界遺産に指定され、秋の連休ということもあり、人でにぎわっているかと思ったが、滝尻王子の周辺は思いのほかひっそりとしていた。
滝尻王子に参拝して、そのわきを抜けると険しい山道が始まっている。

この区間は中辺路のなかでも難所だというが、急傾斜の坂道を一気に登っていく。道には石が埋められているが、古くからある石は整然としておらず、下を見ながら歩いていないと足をくじきそうになる。石に木の根が絡みついており、時代を感じさせる。
15分ほど登ると、胎内くぐりと呼ばれる場所に着く。短い洞窟に入り、狭い出口をくぐり抜ける。見たところ、ほんとうにくぐり抜けられるのか不安に思うほど狭くなっていて、体中土だらけになってようやく胎内から這い出すことができる。まさに、rebornという感じ。少々太めの人はくぐり抜けられないかもしれない。
胎内くぐりのすぐ脇に、乳岩という奥州藤原氏藤原秀衡の子にまつわる伝説がある巨岩がある。それを拝んで元の道を引き返す。すれ違う人の多くはしっかりとした登山の格好をしており、この先ずっと古道を歩いていく計画なのだと思う。

牛馬童子

慣れない山歩きですっかり汗をかいてしまった。
滝尻王子から道の駅熊野古道中辺路ふれあいパーキングまで自動車で移動し、休憩と昼食をとることにする。
中辺路は世界遺産に指定されて整備されているものの、山道は思いのほか険しいこともあって、大勢の観光客がつめかけるというほどではなく、全般的に素朴な山村の風情である。
この道の駅も、こぢんまりとして、手作りのおみやげ品が並べられており、田舎風である。山の中の空気は平地に比べると涼しくて気持ちがいい。山菜そばを食べた後、ここから熊野古道に入り、牛馬童子まで歩く。

このあたりは、滝尻王子ほど急傾斜の道ではなく、歩きやすい。しばらく行くと、森の中に牛馬童子像がある。思ったよりも小さく、かわいらしい像だった。

熊野本宮大社

道の駅に戻り、熊野本宮大社へと向かう。
旅行を計画したときには、もし、歩き足りなかったら熊野本宮大社に車を停めて、近くの中辺路も歩こうと考えていた。しかし、ふだん登山などをしないわれわれは、滝尻王子からの山道ですっかり山歩きをした気持ちになり、歩き足りない気持ちなどはさっぱりなかった。
10年以上前に、熊野本宮大社に行ったことがあった。その時には、山の中にこつぜんと神社があらわれたような記憶があったが、今回行ってみると、周辺の道路や施設がずいぶん整備されていた。世界遺産指定の関連なのだと思う。けれども、昔の方が神秘的で印象深かった。
神社の前にある檜の香りが真新しい世界遺産熊野本宮館に入り、熊野古道の歴史が書かれたパネルを見る。以前来たときは計画も立てない旅行だったので、熊野三社や熊野古道の歴史も知らずにお参りだけだったから、ずいぶん勉強になる。熊野周辺の信仰は修験道に支えられていたこともあり、神仏が混交していることがよくわかった。熊野権現と書かれた幟が立てられている。権現とは、本地垂迹説に基づき、仏が神の姿を借りて仮に現れたものであること意味しているという。
熊野本宮大社にお参りをする。以前あった社殿は川の中州にあり、水害で流されてしまったという。再建された社殿は水害にあわないためか、山の中腹にあり、石段を登るのが少々きつい。熊野古道の旅行は、坂道や石段を登ることを覚悟しなければならない。

川湯温泉

本宮大社の後、今日の宿、川湯温泉富士屋に向かう(http://www.fuziya.co.jp/)。
川湯温泉は、川原に面して温泉宿が並んでいる。まさに名前通りに、川原の石を掘ると温泉が湧いてくる。川の水とちょうどよく混じり合うように調節して、そこに浸かっているひとたちがたくさんいる。

冬には大きな露天風呂、仙人風呂を作り、川湯温泉の名物となっているらしい。川原でしばらく遊ぶ。水着を持ってこなかったので、「川湯」に浸かることはできなかったけれど、裾をまくりあげて川に入ると確かに熱い温泉が湧いている。
少しぬるっとするお湯で、歩き疲れた体を休めるのに温泉がちょうどいい。本宮大社のそばには古い温泉地が集まっていて、昔から参詣者は温泉で身体を癒していたようだ。

熊野三社

翌日は、海岸まで降りて行き、紀伊半島の海岸をぐるっと回る大辺路を車で走って白浜に戻るルートである。
まず、新宮市の熊野速玉大社へ行く。この神社は、新宮市の街中にあり、本宮大社と違って柱を朱色に塗っており、新しい感じがする。もともとは、近くの神倉神社のゴトビキ岩という山中にある巨岩がご神体だったという。昨日、しっかり歩いたこともあり、ゴトビキ岩まで登るのはやめにして、熊野那智大社に向かうことにする。
熊野三社のなかでは那智大社がいちばん観光地化されている、言い換えれば俗っぽい。狭い山道の両側におみやげ屋がならんでおり、そこの駐車場に車を停める。帰りにそのおみやげ屋で何か買わないといけない(暗黙の了解だけど)というシステム。そこから大社の社殿まで石段を登っていく。今回の旅行は、登りが多く、皆もう疲れている。
那智大社ももともとは神仏習合の神社だったけれども、神仏分離令で神仏が分けられ、仏の方は那智大社の隣にある青願渡寺となっている。この寺は西国三十三ヶ所めぐりの第一番札所になっている。

この青願渡寺の三重塔と那智の滝が並んで見える。滝つぼの側まで行けるのだけれども、もう歩く気がわかず、滝を遠望して満足した。

那智勝浦のまぐろ料理

那智大社から那智勝浦まで山を下った。那智勝浦はマグロの水揚げで有名な港だという。駅前にいくつかマグロ料理の店が並んでいる。インターネットで調べておいた「竹原」(http://restaurant.gourmet.yahoo.co.jp/0005390682/)という小さなマグロ料理の店で昼食を取った。この町では知られた店らしく、しばらく並んで待たなければならないほどだった。四人でマグロ定食を注文した。味は普通だったけれど、歩きつかれておなかが減っていたので一気に食べてしまった。

大辺路を抜けてととれとれ市場

那智勝浦から南紀白浜まで海沿いの道、大辺路を走る。"The Cove"の大地町も通り抜ける。南国の海らしく、日の光を受けてエメラルドグリーンに輝いている。スキューバダイビングをしている人たちもいる。紀伊半島は、山、森、川、海と自然が実に豊かだと実感した。
南紀白浜に着き、地元の漁協が経営している直販施設「とれとれ市場」(http://www.toretore.com/tore/)に寄った。これまでは、連休なのにそれほど混雑を経験していなかったが、ここは鮮魚とおみやげ品を売っている広いフロアが行楽帰りの客でいっぱいになっていた。
おみやげに梅干を買おうと思い、試食できるものをあらかた食べて比較をしてみた。それまで自分がどんな梅干が好きなのかよくわかっていなかった。どうやら、薄塩ではちみつが少し入った甘めのものが好きらしい。
とれとれ市場の近くにあるレンタカーのオフィスに行って自動車を返し、空港まで送ってもらった。