クラシックカーとなることを拒絶するクルマづくり

クラシックカーのリストア番組でトヨタ車が取り上げらることはほとんどない

以前のエントリーで、「ディスカバリー・チャンネル」(https://japan.discovery.com/index.html)で、クラシックカーをリストアすることをテーマとする番組がたくさん放映されており、特に「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」(https://japan.discovery.com/series/index.php?sid=1036)が気に入っていると書いたことがある。

この番組はイギリスで制作されているから、当然イギリス車が多く取り上げられている。そのほか、ドイツ車、イタリア車、フランス車、スウェーデン車などのヨーロッパ車、そして、アメリカ車も取り上げられることが多い。それらに比べると日本車が取り上げられることは圧倒的に少ない。

日本車で取り上げられたものとしては、日産GTR、240Z(フェアレディZ)、マツダRX-7、スバルインプレッサなど、安くて速いというイメージがあるクルマが取り上げられている。トヨタ車が取り上げられることはほとんどない。

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トヨタ車のテクニカル市場の圧倒的な占有率と実用性の高さ

クラシックカー番組で取り上げられないといっても、トヨタ車が中古車市場でリセールバリューがないか、というと、そんなことはない。

アフリカや中東の戦場でよく使用されているピックアップトラック重機関銃や無反動砲を据え付けた車両を「テクニカル」と呼ぶそうだ。テレビでの報道で映るテクニカルを見ると、トヨタ車の比率が非常に高いことに気が付き、インターネット上のテクニカルの画像を集めたことがある。一目瞭然だが、トヨタ車の市場占有率は圧倒的である。

テクニカル市場では、究極の実用性、費用対効果が求められる。その市場での圧倒的な占有率は、耐久性や修理部品の入手可能性なども含めたトヨタ車の極めて高い総合的な実用性を証明しているのだと思う。

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トヨタユニクロの共通性:クラシックカーとなることを拒絶するクルマづくり

私自身は、実用的な意味では自動車が必要ない生活をしているので、自動車を持っていないし、当面買う予定もない。しかし、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」を見ていると、実用性度外視で欲しいと思うクルマもある。当然、実用的な性能は新車と比較すればクラシックカーは劣っているが、クラシックカーには実用的な性能とは別の価値がある。

トヨタ車の実用的な価値は世界的に認められ、多くの中古車が流通しているけれど、クラシックカーとして認められないのは、そもそもトヨタのクルマづくりが、実用的な性能とは別のクラシックカー的な価値を拒絶しているのではないかと感じることがある。そして、その姿勢は、ユニクロに共通するものがあるように思う。

ユニクロの服にはファッション性はない(というと言い過ぎだとすれば、ファッション性が乏しい)が、ヒートテックに代表されるように機能性の高さがウリである。それまで機能性が高い服といえば、スポーツウェアメーカーのもので、価格もそれなりに高かった。ユニクロはファッション性はないけれど、手頃な価格で機能性が高いという新しいポジショニングで成功した。私自身、ユニクロのアウターは買う気がわかないけれど、インナーはユニクロ率が高い。

もし、生活の変化があって実用的な意味でクルマが必要になるとしたら、何を買うのか想像することがある。費用対効果を追求すると、ユニクロのインナーを買うように、中古のヴィッツを買うことになるかもと思うことがある。おもしろさやファッション性はないけれど、車輪が四つ付いていて、高速道路も安全に走れる、移動のための実用性という意味では必要十分ではないか。

実用性とクラシックカー性はトレードオフなのか

ユニクロの服は、それほどコストアップしなくても、もうちょっとファッション性を高めることができるような気もする。機能性も高く、ファッション性もあって、値段も手頃になればもっと売れるようになりそうだし、なぜそうしないのかな、と思うこともある。しかし、仮にユニクロがファッション性を高めると、逆に売上が下がってしまうのだろう。

ユニクロのユーザーは、そもそもユニクロにはファッション性を期待していない。洋服のファッション性に無関心な人は多く、そのような人にとっては「おしゃれな店」は入りにくい。だから、ユニクロがおしゃれになると、そのようなユーザーが離れていってしまう。だからユニクロはあえてファッション性を高めないようにしているのではないだろうか。

トヨタ車がクラシックカーとして評価されるクルマを作らないのは、同じような配慮があると思う。トヨタ的実用性とクラシックカー性はにトレードオフがあるのだろう。トヨタは、クラシックカーになるようなクルマを作ることは、トヨタユーザーの拡大に結びつかないという判断を下しているのかもしれない。

「日本的ものづくり」?

実際、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」に取り上げられているイギリス車のメーカーの多くは、「クラシックカー性」によってブランドは存続しているけれど、会社自体は買収されている。だから、カーマニアには評価されないかもしれないけれど、トヨタのポジショニングはひとつの選択肢なのだろう。

あまり根拠なく「日本的なんとか」ということを言うのは好きではないのだが、トヨタユニクロのようなポジショニングは、海外から見た日本のステレオタイプのひとつになっているような印象がある。