お混み焼きの真実
この三連休は関西に旅行に行ってきた。
主な目的は、京都の紅葉だったけれど、ハイシーズンのため京都の宿が取れなかったから、大阪に二泊して京都まで通った。
土曜日は午後に東京を立ち、夕方に大阪に着いた。ガイドブックで調べた大阪駅のガード下にある新梅田食道街のきじ屋というお好み焼き屋に行った。
私の両親は東京出身で、親戚にも関西関係者はあまりいないこともあって、実家の食卓にお好み焼きがあがることはなかったし、子供のころはお好み焼き屋に行ったこともなかった。
私のつれあいは子供の頃にそば屋にあまり行ったことがなかったらしい。つきあい始めてから、私にそば屋に連れて行かれて、はじめのうちは何を注文していいのかとまどったという。たしかに、最近のそば屋はメニューが写真が入っていたりするけれど、文字だけならんだお品書きでは、なにがでてくるのか想像できないかもしれない。
彼女にとってのそば屋が、私にとってのお好み焼き屋である。どういう作法で何を注文していいのかわからず、おずおずしてしまう。いまだに、自分で焼かなくていい店だということを確かめてからではないとお好み焼き屋に入れない。
最近は、飯田橋にある「ぼてぢゅう燦」という店に通うようになったから、多少はお好み焼き屋にもなれてきた。しかし、ほかのお好み焼き屋にはあまり入ったことがないので、お好み焼き屋一般の作法なのか、「ぼてぢゅう燦」の作法なのかがわからず、やっぱりお好み焼き屋に入ると挙動不審になってしまう。
最近ではお好み焼き用の粉を買ってきて、自分の家でお好み焼きを作ることもある。しかし、夫婦ふたりともお好み焼きを作った経験が乏しいから、はたして世間一般でいう普通のお好み焼きができあがっているのか確信が持てずにいた。大阪に行くこの機会に標準的なお好み焼きを食べたいと思った。
きじ屋は、ガード下のごみごみしたところの二階にある狭い店だったけれど、ガイドブックで焼いてもらう店だということを確かめていたから、なんとか落ち着いて店に入ることができた。席に着くまでしばらく並んでいたから、その間にほかの人がどんな注文をするのか観察する時間があったのがよかった。
生ビールに、豚玉に、モダン焼きを注文して、店の人がどんな風に焼くのかをゆっくりと眺めた。いつも家で食べているお好み焼きより、キャベツが細かくみじん切りになっていた。鉄板にお好み焼きのもとを落とした後、しその葉を乗せるのはこの店の工夫なのだと思う。思ったよりも時間をかけてじっくりと焼いている。まだ焼けていない表面に豚の切り身を広げて並べ、手際よくひっくり返す。
お好み焼きが焼けたころに、モダン焼きの準備を始める。豚肉を炒め、その上に焼きそばを広げて、ソースをちょっとかける。そばに火が通ってから、卵を溶いたボールに焼きそばを入れてかき混ぜて、鉄板の上に落とす。モダン焼きは、すぐに焼き上がる。あとは、お好み焼きとモダン焼きに粉のかつお節と青のりを降り、マヨネーズとソースを塗ってできあがり。
お好み焼きは、表面はさくっと焼けていて、なかはキャベツと小麦粉がしっとりしていた。モダン焼きは、卵の味がしっかりついていて、おいしかった。これがお好み焼きの真実なんだと思いながら食べていた。
こんど家でお好み焼きを作るときは、もう少しキャベツを細かく刻もうと思う。