サラ・ペイリンとティー・パーティー・ムーブメントとは何か
最近、通勤の時にアメリカのニュース番組のPodcastを聴いている。今のいちばん大きなニュースは中間選挙の動向である。
民主党は劣勢を覆そうとして、バラク・オバマとミシェル・オバマが接戦の選挙区を精力的に回って応援演説をしている。ビル・クリントンも人気があり、いろいろな選挙区から引っ張りだこだという。
当然といえば当然だが、前大統領とはいえ、ブッシュ・ジュニアが応援演説をしているというニュースは聞かない。共和党の側で応援演説に飛び回っているのはサラ・ペイリンである。
サラ・ペイリンは、前回の大統領選挙で副大統領候補となり、副大統領としての素養、資質について疑問がなげかけられた。しかし、彼女は次の大統領選挙を目指して活動をしているようだし、現段階では有力な候補のひとりになっているという。
サラ・ペイリンがなぜ人気があるのか不思議に思うというツイートをしたところ、稲本(id:yinamoto , http://twitter.com/#!/yinamoto)から次のようなリプライがあった。
@yinamoto: @yagian 保守的発言をする有名人女性ってウケるみたいね。少し馬鹿っぽく見えて勇ましいことを言うといいらしい。
2010-10-25 08:51:37 via web to @yagian
@yinamoto: @yagian 保守って最終的には理詰めではなくて感覚的なものだから、馬鹿っぽいところのある人のほうが自分の身の丈に近く感じられてウケるのかも。
2010-10-25 12:56:09 via web to @yagian
確かにそういう側面があると思う。女性ではないけれど、ブッシュ・ジュニアが大統領になったのは、そういうところが草の根保守派の共感を呼んだのだと思う。
大統領の息子として生まれたという意味ではエスタブリッシュメントだけれども、本人は親のコネで有名大学に入ったものの成績は悪く、卒業してからビジネス界に入ってからは成功せず、アルコール中毒になり、その後、キリスト教の信仰によってアルコール中毒を克服した。そういった過去を隠すことなく、自分の成績の悪さをしばしば自虐的ギャグにする。好き嫌いはあるだろうけれど、どこか憎めない愛嬌があると思う。想像だけれども、アメリカ人にとっては、決して立派ではなく外にだすのは恥ずかしいけれど、憎めない粗野な親戚のおじさんといった印象のキャラクターなのではないかと思う。
アメリカの保守派にはワシントンの政治家に対する根強い反発があるというが、確かに民主党や左派の政治家には、どこか高慢な印象があり、反発する気持ちもわからないではない(id:yagian:20050220:p1)。立派かもしれないけれど、感情的に反発を感じてしまう。そういう意味では、ワシントンのエスタブリッシュメントの政治家の家に生まれ、環境問題について高邁な理想を語るアル・ゴアとブッシュ・ジュニアは対照的な二人だったと思う。
ジョン・マケインはベトナム戦争の英雄で、立派な保守派の政治家である。その彼が、草の根保守に訴えかけるために、「おバカ」キャラのサラ・ペイリンを副大統領候補に選んで一発逆転を狙ったという意図はわからないでもない。
しかし、アメリカ国民は、そういう「おバカ」キャラのブッシュ・ジュニアを大統領に選んだことに懲りて、マケイン・ペイリンのコンビではなく、バラク・オバマを大統領に選んだのではないだろうか。そして、それからまだたった2年しか経っていない。
今回の中間選挙では、草の根保守の運動であるティー・パーティー・ムーブメントによって、共和党内の予備選挙で、共和党の既存の政治家ではなく、政治に素人な候補者が選ばれるという番狂わせが起こった。草の根保守のワシントンを牛耳っているエスタブリッシュメントの政治家への反発の根強いことを感じさせる。
草の根保守は、理性的にはバラク・オバマが大統領になったことのアメリカ歴史上の意義は理解しても、感情的には受け入れられないということかもしれない。ブッシュ・ジュニアで失敗したにもかかわらず、第二の「おバカ」キャラのサラ・ペイリンがティー・パーティー・ムーブメントのシンボルになっている。
さすがにサラ・ペイリンが大統領に当選するとは思わないけれど、世界的に影響力があるアメリカの大統領選挙に、きわめてローカルで感情的な草の根保守の影響力が大きいということは、考えておかなければならないことだと思う。
余談だけれども、私自身も、政治家も含めて人の好みは感情によるところが大きく、どこか愛嬌のある政治家を好む傾向がある。ブッシュ・ジュニアはいまでも憎めないと思う。自分の「おバカ」キャラを理解しているところなどは、かえって賢さを感じてしまう。
一方、民主党の政治家が皆高慢というわけではなく、ビル・クリントンは愛嬌という意味では最強だと思う。モニカ・ルインスキーのスキャンダルを結局逃げ切ったのは、彼の愛嬌ゆえだろう。実際にビル・クリントンに会った人は彼の魅力に魅了されてしまうのだという。
日本の政治家を見てみると、小泉純一郎は愛嬌のある政治家だったと思う。麻生太郎も愛嬌はあったけれど、あまりにもエスタブリッシュメント過ぎたのかもしれない。今の日本の民主党の政治家を見てみると、やや愛嬌に欠けるように思う。菅直人はちょっと緊張しすぎていて余裕が無いように見える。
ま、愛嬌があればいい政治ができるというわけではないけれど。