離脱派は愚かだったのか

離脱派へのネガティブ・キャンペーンと実態

EU離脱に関する国民投票の結果、イギリスはEUから離脱することになった。その直後、残留派から離脱派に対するネガティブ・キャンペーンがいっせいに始まった。

彼らの主張を読むと、離脱派の人々は「イングランド(とウェールズ)の地方部に住み、高齢で低学歴、低所得の労働者階級であり、移民へ人種差別をしており、政治的意図があるポピュリストの政治家の扇動に騙され、EU離脱による影響を理解せず離脱に投票したものの、投票後冷静に考えてみるとEU離脱が合理的でないことに気がつき、今は後悔している」そうだ。

本当か?

EU離脱はイギリスの国論を二分する問題であり、残留、離脱のそれぞれにそれ相応の根拠があると思うのだが、残留派の離脱派に対する差別的な視線は非常に感じが悪い。更に悪いことに、残留派は離脱派が人種差別的だと非難しつつ、自分自身が差別的だということに気がついていないように見える。

さすがに離脱派に対するネガティブ・キャンペーンが目に余ることもあり、離脱派の実態を紹介する記事も目につくようになり、私自身はちょっと安心した。

www.newsweekjapan.jp

bylines.news.yahoo.co.jp

Brexitは不可避か

Brexitについてさまざまな評論、論考があるけれど、私がいちばん納得できたものは、これである。

www.rieti.go.jp

この論考は国民投票直前に書かれたものだが、そのなかで「6月23日の国民投票でイギリスのEU離脱の有無は取り敢えず決着する。しかし、EU残留となっても、将来的にイギリスがEUを離脱する可能性は消滅しない。それどころか、むしろ強まっていくと予想される。」と述べている。私も国民投票前まったく同じことを考えていた。

冷静に比較してみると、離脱派残留派もEUに対する態度には大差はないことがわかる。

残留派は主としてEU共同市場から離脱することの経済的なデメリットを強調していた。彼らもこれからEU統合が進むことについて肯定的な主張をしていた訳ではない。キャメロン首相は、イギリスが特別扱いされるようにEUと交渉した成果を強調していた。

 離脱派もEU共同市場に参加していることのメリット、そこから離脱することのデメリット、リスクについて一定の理解はあったのだと思う。しかし、EUに加盟していることのデメリットの方が大きいと考えている。

結局、離脱派残留派もEU共同市場は経済的なメリットは大きいと考えているが、EUそのものについてはいい印象を持っていない。国民投票は、EU共同市場にとどまるために、気に入らないEUにがまんするか、がまんしないか、という選択だったのだと思う。

もし、今回は残留派が勝利していたとしても、EU統合がさらに進めば、EUから離脱すべきと考えるイギリス国民は増えただろう。

EUは改革できるか

イギリスに限らず、EUはあまり人気がないようだ。

イギリスの離脱に続き離脱の連鎖を防ぐために、イギリスとの離脱交渉においてEU側は厳しい姿勢で臨むのではないかという観測がある。合理的に考えれば、EUにとってもイギリスとの経済的な障壁は低いほうがメリットがあるはずだ。しかし、そのような「甘い」合意をしてしまうと、離脱の連鎖を促進するから、「厳しい」態度で臨むという予測である。

しかし、離脱したメンバーに嫌がらせをして、他のメンバーが離脱を思いどまるように強いる組織は、まともなよい組織と言えるのだろうか。そんな組織から離脱したいと考えるのは当然ではないか。EU自体もイギリスの残留派と同じく非常に感じが悪い。

むしろ、イギリスが離脱し、その他の国の国民からも人気が下がっている現状を直視して、EUの改革の契機とすることこそが必要なことではないだろうか。