オプション

サッカーのワールドカップは、ぼちぼち見ている。書こうと思ったことはいろいろあるのだけれども、書く前にどんどんトーナメントが進んでしまって、後出しになってしまうのもみっともないと思い、書く機会を失ってしまった。そんなことを考えていると、永久にウェブログが再開できなくなってしまいそうなので、後出しも気にせず書いてみようと思う。
ワールドカップについて、マスコミやウェブサイトでいろいろな記事を目にしたけれど、この中田徹という人が書いた記事(「オランダサッカー、5つのエッセンス(1/3)中田徹の「オランダ通信」」
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/0506/holland/column/200606/at00009290.html)は、なかなか面白かった。そのなかで、こんな文章があった。

ところで、うちはカウンターサッカーだからと言って、プレッシングサッカーを練習しないのは正解でしょうか? この間チャンピオンズリーグ(CL)の決勝戦でアーセナルバルセロナに負けました。
 アーセナルはきれい過ぎるほど、カウンターサッカーに関してはほぼパーフェクト。でも試合を見ていると、彼らがプレッシングサッカーを練習していないのは明らかに分かる。
 アーセナルはCLで1−0とリードしているときは、10人だったのに完ぺきだった。でも1−2にされてしまった。そうしたら勝つために(相手が回しているボールを前から奪うための)プレッシングサッカーに切り替えないといけなかった。まだ10分近く時間はあった。でも、まったくと言っていいほど何もできなかった。それはカウンターの練習ばかりで、プレッシングの準備をしていなかったから。
 アーセナルはプレミアでも、よほど実力差があれば逆転するけれど、先制点を許すと何もできず負けてしまうことが多かった。試合の状況によってはどんなチームでもプレッシングサッカーをやらないといけない場面が出てくる。プレッシングに限らず、すべての練習は必要です。

この記事を読みながら、決勝トーナメントの一回戦のアルゼンチン対メキシコの試合を思い出していた。
メキシコは守備が固く、中盤でのボールの奪い合いが続き、予選リーグでは大量得点をしていたアルゼンチンにチャンスらしいチャンスを与えず、後半が終わった時点で1対1だった。
延長戦の前半、アルゼンチンが意表をつくミドルシュートで1点を取った。メキシコは、どうしても点を取らなければならない状況になった。しかし、試合のペースを変えることができず、そのままずるずると試合が終わってしまった。アーセナルは試合時間を残してなすすべがなくなったというが、メキシコもまだ延長が20分ぐらい時間を残していたにもかかわらず、なにもできないまま試合が終わってしまった。
メキシコはいいチームだったけれど、厳しい状況で点を取りに行くというオプションを持っていなかったというところに、ひとつの限界があったのだろう。おそらく、予選リーグであれば、強豪チームに対してしっかり守って引き分けることができれば充分だから、アルゼンチン戦の戦い方で問題がなかったのだろうけれど、トーナメントになると状況が変わってくる。
サッカーでは、リーグ戦と、トーナメント形式のカップ戦の二本立てになっていることが多い。なぜ、そんなややこしいシステムにしているのか不思議だった。しかし、リーグ戦はリーグ戦の、トーナメント戦はトーナメント戦の戦い方があり、より多様な状況が生まれることで、観戦の楽しみが増えるということが理解できた。ワールドカップでも、予選リーグと決勝トーナメントで戦い方が変わるのがおもしろかった。
トーナメントを勝ち抜いてくるチームは、試合ごと、そして、試合中でも、状況に応じてどんどんフォーメーションを変えてくる。攻撃的ということになっていたフォーバック、守備的ということになっていたスリーバックの二つのフォーメーションだけで、しかも、試合中にフォーメーションをスムーズに変えることができなかった日本チームと比べると、個々の技量だけではなく、戦術、戦略の面でもずいぶんレベルが違っていることがよくわかった。
MLBでも、レギュラーシーズンとポストシーズンでは戦い方が変わる。マイケル・ルイスマネーボール」(ランダムハウス講談社 ISBN:4270100281)のアスレチックスが、ポストシーズンへ進出することができても、ワールドシリーズまでは行けないのも、サッカーと同じような事情があるように思う。レギュラーシーズンは、ローテーションを安定させて、弱いチームや相手がローテーションの谷間の時に星を落とさず確実に勝つことが重要だ。しかし、ポストシーズンになると、相手のエースやクローザーを打ち崩さなければならない場面がでてくる。アスレチックスは、そこまでの力はなかった、ということなのだろう。
さて、これはまさしく後出しの話になってしまうけれど、ブラジル対ガーナ戦が終わった後、今回の大会のブラジルチームは、感じが悪いと思った。あのブラジルが、相手にボールを持たせて、カウンターアタック中心の試合をしているのである。エネルギーを節約して勝ち抜こうとしているように見え、どこかブラジルを本気にさせた上で、ぶっ飛ばしてくれるチームはないものかと思った。
結局、フランス戦でも、ボールを支配してどんどん攻撃するというブラジルではなく、カウンターアタック中心の試合だった。後半、選手を交代させた後は、積極的に攻撃していたけれど、空回りしているという印象もあった。フランス戦から逆算して考えれば、ガーナ戦でも、必ずしもエネルギーを節約していたのではなく、選手の調子が悪かったので、ボールを支配できなかったということかもしれない。今回は、優勝に値するチームではなかったのだろうか。
さて、最後に優勝チームの予想。後出しにならないうちに書いてしまおうと思う。
両チームの技量、戦術、戦略といったことについては、私はよくわからない。ここまで来たのだから、拮抗しているのだろうと思う。フランスの方がやや日程が厳しかったこと、それに加え、フランスはベテラン中心である。ジダンもさすがに疲れているだろう。イタリアは、タレントが多く、主力を交代させながらここまでくることができた。そのように考えると、コンディションの面で、イタリアの方が有利ではないかと思う。