世界デフレは三度来るか

リーマンブラザースが破綻し、AIGFRBの支援が決まった。アメリカと世界の金融システムへの影響は、、、、という話題について本格的な議論を書くだけの見識も知識もない。サブプライムローンをきっかけとした金融危機について、個人的な思い出を書き、いつものように本の引用をしたいと思う。
去年の3月、週末を利用して韓国へ旅行をした。運動不足を解消しようと思い、泊まったホテルのジムのトレッドミルで走りながら、トレッドミルに据え付けられたテレビで、ぼんやりとアメリカのニュース番組を見ていた。そのニュースで、サブプライムローンの特集をやっていたのを思い出す。
まだ、金融システムの大問題ということではなく、サブプライムローンを組んでいたローン会社の破綻が増えており、影響は大きくなりそうだという報道だった。そのニュースを見て、アメリカの不動産バブルもはじけているのかと思った記憶がある。そのときは、1年半後にこれだけの大きな問題になるとは、そのニュースでも報道されていなかったし、私もまったく思いもよらないことだった。
しかし、見識のある専門家にとっては、今日の状況は、予想されうるものだったようだ。2006年に出版された竹森俊平「世界デフレは三度来る(下)」のなかで、グリーンスパンFRB議長退任後のアメリカ経済について、次のような警告が書かれていた。少々長い引用になる。

 2000年のアメリカにおけるITバブルの崩壊……後のアメリカの不況が重なって、世界経済がデフレの危険に直面したというわけである。……
……
 しかるに、今回、アメリカ連銀は、政策金利を徐々に下げていって、それでも不況が終わらず、ついに金融政策が無効になるという危険を十分考慮に入れて、当初6パーセントあった政策金利を徐々にではなく、つるべ落としに急降下させた。それでも景気刺激効果が働かないことも考慮に入れて、アメリカ政府もそれを大胆な減税策で支援した。金融緩和の効果が働き出してからも、デフレの危険が完全に消滅するのを見届けるまで、2001年に1パーセント台に引き下げた政策金利を、念には念をいれて2004年の春までそのままに据え置いた。
 財政刺激策の効果もさることながら、これだけ万全の体制を整えて行われた金融刺激策に十分な効果があったことは明らかである。しかし、その効果は心配な副作用も伴った。すなわち「バブル」を思わせる住宅価格の上昇である。……
……
 いまや連銀は、金融政策の方向を引き締めに転じ、2006年の初めには政策金利を4パーセント台半ばまで戻している。……住宅ローンは抑制され、それが住宅価格の上昇に歯止めをかける。さらに、家計は金利が上昇したのを見て、これまでとは逆に消費を減らし、貯蓄を増やす。それで家計貯蓄率が回復すれば、それはアメリカの経常収支を改善させる。グリーンスパン前議長は、そのようなソフト・ランディングのシナリオを描いていた。
 もちろん、このようなソフト・ランディングのシナリオが間違いなく実現するという保証はない。そもそも、不動産評価の上昇を計算に入れて、債務が増え、さらには借り入れによる不動産投機までも起こるということの成り行きは、80年代後半の日本を思わせる。それゆえ万一、住宅バブルが弾けた場合には、不良債権が急増し、それが金融セクターの機能麻痺と家計の消費の急落を招き、アメリカ経済がITバブル崩壊後よりもさらに深刻な景気後退に直面するという悲観的なシナリオも考えられる。
(pp566-570)

この本が書かれた時期には、まだグリーンスパンFRB議長には神話といってよいような評価があった。その時に、悲観的なシナリオとしてだが、現状を的確に見通していた。
経済学者やエコノミストと肩書きがつく人は多い。なかなかどの人が本物で、どの人が偽物なのか素人の私には見分けることが難しいが、竹森俊平は信頼できる書き手だと思っている。

世界デフレは三度来る 下 (講談社BIZ)

世界デフレは三度来る 下 (講談社BIZ)