J. G. バラードと強迫観念
J. G. バラードの「人生の奇跡」「太陽の帝国」「女たちのやさしさ」を読み終えた。
「人生の奇跡」は遺作となった自伝であり、「太陽の帝国」と「女な血のやさしさ」は自伝的小説である。
バラードは1930年に上海の租界で生まれた。租界は、事実上の帝国主義国の小さな植民地である。彼の父親は織物工場の工場長で、彼の家族は屋敷に住み、中国人の召使をたくさん雇い、西洋風のブルジョア生活をおくっていた。その一方で、上海には搾取され、悲惨で生活をおくる貧しい膨大な中国人がいた。バラードは、そんな厳しく矛盾した状況を見つめながら育った。
第二次世界大戦開戦後、日本軍が上海の租界を占領し、バラードと彼の家族は収容所に送られた。彼の生活は根底から変わってしまった。飢えと日本軍の暴力を体験し、多くの中国人と日本人が理由もなく、そして、なんの尊厳もなく殺されていくのを目撃した。
第二次世界大戦後、バラードはイギリスに戻った。上海での記憶は彼に取り付いており、また、当時のイギリスは陰鬱で、彼はイギリスでの生活に馴染めなかった。強迫観念は彼の生活を支配し、死や世界の崩壊という観念が逃れることができなかった。
友人たちや妻、そして彼自身も脅迫観念から逃れようとしたけれど、うまくいかなかった。彼の小説はおぞましくも魅惑的な強迫観念に深く影響されている。強迫観念は彼を不幸にしたけれど、それゆえ我々は彼の傑作を読むことができる。
バラードは2009年に亡くなった。彼は終生強迫観念から逃れることはできなかっただろうと思う。しかし、彼は脅迫観念をコントロールできるようになった。小説家になる前は自己破滅的な行動をしていたけれど,小説という形で強迫観念を表現することで、彼自身の人生をコントロールできるようになった。
この地震と津波の災害を受けた人たちは、恐ろしい記憶に囚われているのだろうと思う。その記憶を忘れることは不可能だろうけれど、バラードのように強迫観念をコントロールする方法を見つけてくれればと願っている。
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