場当たり的対応
もうすでに各所でさまざまな批判がされているから屋上屋を架すことになるけれど、一昨日の記事に書いたこと(id:yagian:20110505:1304578609)と関係が深いので、いちおう書いておこうと思う。
福島第一原子力発電所の事故への対策について、内閣官房参与を辞任した小佐古敏荘教授は、政府がルールに基づかないその場かぎりで「臨機応変な対応」を行い事態収束を遅らせていると批判している(http://goo.gl/5AdVH)。この小佐古教授の批判に対し、枝野幸男官房長官が記者会見で反論をした(http://goo.gl/Jo8Fq)。
今回、菅直人総理大臣が浜岡原子力発電所のすべての原子炉の運転停止を「要請」する記者会見を開いた(http://goo.gl/WZFam)が、これはまさに「臨機応変な対応」である。これでは、枝野長官の反論も説得力をまったく失ってしまったと思う。
私なりに福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、実施すべき対策を考えてみた。
最終的な目的は「安全な発電方式による安定的な電力供給の実現」ということになるだろう。それに向けていくつかの段階を経て対策を実施する必要がある。短期(数か月)、中期(数年)、長期(十年以上)の三つの期間に区切って対策を考えてみる。
【短期(数か月)】
- すべての原子力発電所を対象として、運転中の原子炉でも実施可能な緊急的な防災対策(原子炉本体、周辺のユーティリティを含めこれまで想定された以上の地震、津波への対策)の実施。
- すべての原子力発電所を対象とした安全性の再評価(現状の原子力安全委員会の委員(http://goo.gl/mqBeP)に、地震、災害対策の専門家を加えた体制で評価基準を検討、原子力安全・保安院で評価を実施)。
- 特に危険性が高いと判断された原子炉の運転停止の命令(運転停止の命令の根拠となる法律の早急な成立も合わせて実施)。
- 定期点検中で停止している原子炉の運転再開のための暫定的な安全基準の早急な検討、決定(地震、災害対策の専門家を含めた原子力安全委員会で検討)。
- 定期点検中で停止している原子炉について、上記の暫定的な安全基準を満たすための防災対策の実施。
- 定期点検中の原子炉の運転再開に際しては、原子力安全・保安院による暫定的な安全基準を遵守していることを確認する検査を実施。
【中期(数年)】
【長期(十年以上)】
素人考えだから抜け落ちがあるかもしれないけれど、全体像としては概ねこのような流れになると思う。このうち、一番最初に示した対策については、すでに実施済みのようだ(http://goo.gl/D94xB)。
あまりも当たり前のことなので、わざわざ書くこともはばかられる内容だけれども、今回の菅首相の浜岡原子力発電所に対する運転停止の要請の問題点は、概ね以下のようにまとめられると思う。
- 上に示したように原子力安全対策、エネルギー政策に関するロードマップ・工程表が示されていないため、個々の対策が場当たり的になる(もしくは、そう見える)。
- 浜岡原子力発電所が運転停止要請の対象になったが、その論拠が明らかではない。他により危険な原子力発電所があるのではないか、また、危険性の評価が科学的に行われたのか疑問がある。
- 運転停止が法的根拠を持つ「命令・指令」ではなく、「要請」であること。もし、浜岡原子力発電所の運転停止が極めて重要だとしたら、中部電力に運転停止を拒否された場合どうするのか。また、他にも危険な原子力発電所が明らかになった場合にはその都度「要請」をするのか。
- 原子炉の運転停止に関する基準、制度の整備についてどのように考えているのか、今後の方針が示されていない。危険性の科学的な評価を踏まえていないため、基準、制度の整備について展望が示せないように見える。
- 浜岡原子力発電所の運転再開の条件が「防潮堤の建設など中長期的の津波対策が終わるまで」とされているが、安全確保のための十分な条件となっているのか不明。
- 中部電力圏内における電力の安全供給の可能性と原子力発電所の安全性との比較衡量がされているように見えない。
やはり、菅直人という人は政府という大組織をマネジメントしなければらなない長としての資質に欠けているということなのだろうか。組織や制度の使い方がよく分かっていないのではないか。浜岡原子力発電所を停止させることが必要ならば、原子力安全委員会の勧告といった形でオーソライズすれば無用な反論を招かないのに。
思いつきのトップダウンの指示が出て、周辺が翻弄されている様子が目に浮かぶ。