Immanuel Wallerstein「近代世界システムI 農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立」の要約

Immanuel Wallerstein「近代世界システムI」を読み始めた。それなりに、事前の準備の読書はしたつもりだったけれど、Europeの歴史に関する予備知識が不足してうまく理解できないところも多い。今は、ざっくり大筋を押さえて、細部の歴史について理解できるようになってから再読しようと思う。
第7章が総括になっているので、序章を読んだ後、第7章に目を通し、そのあと第1章に戻って読み進めると理解しやすいかもしれない。
簡単に要約をしておこうと思う。
第1章 近代への序曲

  • 1450年頃以降のEuropeにおいて、資本主義的な「世界経済」(「世界帝国」と異なり政治的統一はなされていないが、一体的な経済システム)の生まれる素地が成立した。それは「世界」的な規模での分業体制と、いくつかの官僚制国家である。
  • 15世紀における中国は、大規模な国家官僚制、貨幣経済、技術もあり、資本主義の素地がそろっているように見える。しかし、統一的な「帝国」を持たないEuropeが「世界経済」を成立させたのに対し、中国の「世界帝国」としての政治構造を維持するための負担が対外進出や資本主義の成立を妨げた。

第2章 新たなヨーロッパ分業体制の確立

  • 16世紀のEuropeの特徴は以下の四点にまとめられる。
  • 新世界に進出し、Europeに大量の金銀が流入した。
  • 金銀の流入の結果、Europeでは本来の資力を超えた投資が可能になった。
  • Europeの中核地域では「ヨーマン=農業企業家」が勃興し、周辺地域では「換金作物栽培のための強制労働制」が成立した。
  • Europeを中心とする「世界システム」の支配関係は複雑で容易に識別できない。例えば、Spainの帝国主義がNorthern Italyを飲み込んだのか、Northern Italy都市国家の商人、銀行家がSpainを利用したのか、判然としない。

第3章 絶対王政と国家機構の強化

  • 「近代世界システム」においては、世界的な規模での分業体制を基礎として「世界経済」が成立した。
  • 「世界経済」を構成する各地域、中核、半周辺、周辺は、それぞれ固有の経済的役割を持ち、異なった階級構造、独自の労働管理の方式、国家の構造に差が生じた。中核地域の国家において中央集権化が最も進んだ。

第4章 セビーリャからアムステルダム

  • 「16世紀第2期」に、Nederlandは「バルト海貿易」の中心となり、East Europeからの穀物輸入を支配し、木材貿易の中心市場となることで造船のための原材料を安価に入手し、技術革新を進めることができた。この結果、Nederlandは、Europe「世界経済」の商品市場、海運、資本市場という三重の意味での中心となった。また、政治的対立にもかかわらず、Spainとの経済関係を維持することで新世界の銀を得ることができた。
  • 16世紀以前の先進地域であったNorthern Italyは、人口の増加と穀物輸入がNetherlandに支配されたことによる農産物価格の騰貴、輸入原材料価格を低く抑える政治的・経済的能力が劣っていた結果、中核地域の市場での価格競争力を失い、半周辺地域へ転落した。このことが、統一国家形成の遅れにもつながった。

第5章 強力な中核国家

  • EnglandとFranceの王権の役割の相違が、「ヨーロッパ世界経済」での地位に対する決定的要因となった。
  • Englandでは、Bourgeoisの利害が中央政府と結びついていた。絶対王政の成立により中央政府は地方に優越した結果、Bourgeoisが主導権を握った。Bourgeoisが市民権を得て、貴族はBourgeoisに同化する必要があった。両国とも地主階級が復活したが、Englandの地主階級は非貴族のgentryが中心だった。
  • Franceでは、Bourgeoisの利害が辺境地域と結びついており、絶対王政の成立、中央政府の優越の結果、Bourgeoisが挫折することになった。FranceのBourgeoisと国家の利害が一致するようになったのは1789年のFrench Revolution以降であり、すでに発展していた「世界経済」での覇権を握るのは困難だった。

第6章 「ヨーロッパ世界経済」

  • 「世界経済」の周辺地域では労働の報酬が低い商品、重要な日常消費財を生産し、分業体制の重要な一環をなしている。
  • 一方、「世界経済」の範囲外とは、主として「豊かな貿易」と呼ばれる奢侈品の交易を行われる。
  • 「16世紀」において、East Europeは「ヨーロッパ世界経済」の周辺地域であり、Rusiaは独自の「世界帝国」を目指した「ヨーロッパ世界経済」の外部だった。
  • 新世界では植民地が作られEuropianの監督下低廉な労働力を使役し精算が行われるようになり、「ヨーロッパ世界経済」の辺境地域として分業体制の一環をなし、現地の社会構造が変化した。
  • 一方、Asiaは、Europeから遠く、その中枢部を征服することができず、商館を中心としたnetworkによる奢侈品交易に限定されており、「ヨーロッパ世界経済」の外部にとどまった。
  • 新世界やEast Europeではわずかな力で巨額な余剰を収奪するシステムができたが、Asiaでは各地の支配者たちが大きな分前を要求したためわずかな余剰を獲得するためにも大きな力を必要とした。

第7章 理論的総括

  • 「社会システム」とは自立的(内部での生活が自給的で、主として内発的に発展する)な単位だとすると、部族、共同体、国民国家はこの条件に合致しない。「社会システム」といえるのは小規模で自給的な経済と「世界システム」である。
  • 「世界システム」には、領域全体に単一の「政治システム」が作用している「世界帝国」と、単一の「政治システム」が欠けている「世界経済」の二種類しか存在してこなかった。
  • 過去の「世界経済」は不安定で「世界帝国」に転化するか、解体してしまうかのいずれかだった。ひとつの「世界経済」が500年存続したことが「近代世界システム」の特性である。
  • 「世界経済」は分業体制を含むsystemであり、中核、半周辺、周辺に区分される。中核部では国家機構が比較的強く、周辺では比較的弱い。より高度な技術と資本を要する職種は高位に位置づけられた地域が占め、不均等性が拡大される。
  • 中央の政治機構がないため、不均等な配分が是正されない。国際的には不均質だか、国内的には均質というのが「世界経済」の特質である。