「公正としての正義」とポピュリズム
ジョン・ロールズ「公正としての正義再説」を読んでいる。
ロールズは、民主主義国家の基礎となる正義の原理を探求し、次の二つの原理を提唱している。
一つ目は、基本的自由をすべての人に平等に与えること。二つ目は、所得と富の平等な配分を求めるが、社会で最も不遇な立場にある人の利益になるような社会的・経済的不平等のみを認めることである。
この正義の概念は、民主主義国家においては、異なった考えを持つ個人、集団が共存する「穏健な多元主義」を前提として、理性ある民主主義国家の構成員であれば共有しうるものだと考えている。
CNNのAnderson Cooper 360°(http://ac360.blogs.cnn.com/)のPodcastを見ていたら、ティー・パーティー・ムーブメントに関係する二つ気になるニュースをやっていた。
一つは、ティー・パーティに支持されたニューヨーク州知事候補のカール・パラディーノがシナゴーグでゲイのライフスタイルは平等な権利を持つものではないと発言したというものである。もう一つは、やはりティー・パーティーに支持された下院議員候補が、ウェブサイトでナチのSS部隊のコスチュームを着た画像、動画を公開しており、そのウェブサイトではナチを共産主義に対抗したとしたものとして記述していたというものである。
ティー・パーティーのムーブメントは、保守派の草の根の政治運動であり、既存のワシントンの政治に不信感を持っている。基本的には共和党支持であるが、既存の共和党の政治家を必ずしも支持しているとは限らない。中間選挙の予備選では現職の議員に代わり、ティー・パーティーが支持する新人が選ばれる現象が起こっている。
ロールズは、「穏健な多元主義」を民主主義の大前提とすれば、理性のある構成員によって基本的自由をすべての人に平等に与える原理が選ばれると言っている。しかし、この二つのニュースは、必ずしも「穏健な多元主義」という前提や基本的自由をすべての人に与えるという正義の原理がすべての人に受け入れられているわけではないことを示しているように思う。
既成のワシントンの政治家は、民主党、共和党を含めて、ロールズの「公正としての正義」の第一原理は当然のこととして受入れている。ティー・パーティ・ムーブメントに参加する草の根の保守派の人々は、理性的には「穏健な多元主義」や基本的自由に関する正義の原理を認めていても、感情的には受け入れがたいと思っており、そのことがワシントンの政治への反発の背景になっているのではないだろうか。ティー・パーティ・ムーブメントは、そのような人々の感情の受け皿になっているように思う。
ロールズの議論を読んでいると、理想的な民主主義国家においては共有されるべき正義の原理を導き出しているけれど、現実にはそれを受け入れがたいと考える人々が存在するのだろうと思う。しかし、それゆえ、民主主義を守るためには正義の原理を強く主張する必要があるともいえるのだろう。
- 作者: ジョンロールズ,エリンケリー,John Rawls,Erin Kelly,田中成明,亀本洋,平井亮輔
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/08/26
- メディア: 単行本
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