年功序列とキャリアアップ

上原浩治オリオールズからレンジャースに移籍した。
彼のことはジャイアンツにいた頃から好きだった。彼のような繊細なピッチングを見ているのは楽しい。それほどボールが速い訳ではなく、絶対的な決め球になるような変化球がある訳でもない。しかし、絶妙のコントロールがあり、まったく同じフォームから変化球を投げ分ける。絶妙な駆け引きでバッターを抑える。
彼のピッチングには、綱渡りを見ている時に感じるような緊張感がある。メジャー・リーグでは、オーレル・ハーシュハイザーを思い出す。(うまく説明できないけれど、グレッグ・マダックスとは違うタイプのように思う)テニスで例えれば、絶対的なビッグサーブや圧倒的なパワーはないけれど、技量と戦略を組み合わせた総合的な力量で勝つロジャー・フェデラーのような存在だと思う。
彼はもともといいピッチャーだから、今シーズンの活躍は不思議ではない。ジャイアンツのエースというだけではなく、日本代表の不動のエースだったから、メジャーリーグで通用するのになにの不思議はない。
本当であればいちばんいい時にメジャーリーグに渡って欲しかったけれど、怪我をして低迷をしてジャイアンツのエースの座から離れたあと、メジャーリーグに渡ったから、弱小チームのオリオールズの中継ぎになった。全盛期であれば、有力チームのローテーションのピッチャーとして迎えられたはずだ。オリオールズに移籍してからも怪我に苦しんでいたけれど、今シーズンはコンディションがいいようだ。上原浩治は、怪我がなければこれくらいのピッチングをしてなんの不思議もない。
最近は日本のプロ野球でもトレードが活発になったけれど、メジャーリーグではシーズン中も含めて臨機応変にトレードをする。ジーターやイチローのような長年同じチームの中心選手として活躍するフランチャイズ・プレイヤーはごく限られていて、普通のプレイヤーはチーム事情とその時の実力、調子でチームを移動する。
今回は、優勝には関係のないオリオールズから、優勝を確実にするためにリリーフを求めたレンジャースへのトレードだから、キャリアアップである。もちろん、トレードにはキャリアップだけれはなく、松井秀喜のエンジェルスからアスレチックスへのトレードはキャリアダウンである。
たしかに常に評価されてキャリアアップとキャリアダウンをするメジャーリーグは厳しいと思う一方、適材適所でその人の能力を活かすというよさがあると思う。年功序列は安定しているけれど、しばしば飼い殺しにされることがある。
松井秀喜のトレードは、たしかに年俸は減っているけれど、エンジェルスで出場機会がなくなるよりは、アスレチックスでレギュラーとして出場する方が、野球選手としてはうれしいことだろうと思う。また、上原浩治も、優勝に縁がないオリオールズで懸命にピッチングをしていれば、そこで飼い殺されることなく、今回のようにキャリアアップする可能性があるからモティベーションも維持できるだろう。
メジャーリーグでは、選手に限らず、監督、コーチはもちろんスタッフも実績に応じて随時キャリアアップ、キャリアダウンを繰り返しているらしい。メジャーリーグ全体としてみれば、明らかに年功序列より人材の有効活用が実現しているのは間違いない。今や日本のプロ野球も事実上キャリアアップ、キャリアダウンのシステムのなかに組み込まれている。
上原浩治も、ジャイアンツのフランチャイズプレイヤーとして元気生活を終えることも選択できた立場だったけれども、キャリアアップを目指し、今、一歩前進した。ずっと彼を見続けている私としてはうれしい限りである。