安倍晋三のいつかきた道
このところの安倍晋三首相を見ていると、第一次安倍内閣がたどった道に戻ってきたと感じている。
安倍晋三の信念は一貫していて「ブレて」いない。彼は、彼の考える日本の自立を目指し、憲法の改正、教育の改革、軍事力の強化を実現しようとしている。
第一次安倍内閣では、首相になってすぐに改革に着手した。しかし、結果としては参議院選挙で敗北して過半数割れをし、体調悪化で辞任した。その後、衆議院と参議院の「ねじれ現象」によって自民党政権は機能しなくなった。結局、安倍政権が政権交代の引き金を引いたわけだ。
第二次安倍内閣は、明らかに第一次安倍内閣の反省を踏まえている。衆議院選挙に勝って政権を取り戻し、参議院選挙で「ねじれ現象」を解消するまでは、国民が望んでいた政策、つまり景気回復に専念していた。そして、参議院選挙で勝ったあと、彼の考える「改革」に取り組み始めた。
私から見ると、彼の「改革」には合理的な政策と非合理的な政策が混在している。
普天間基地移設問題については、民主党政権と政策を実現する能力の際立った差を示したと思う。また、日本版NSCの設立についても大筋としては理解できる。秘密保護法も適切に運用されるなら必要性は理解できる。しかし、靖国神社参拝と教育改革については、安倍晋三個人としての非合理的な信念と政府として合理的にすべきことが混同されている。
秘密保護法も靖国神社参拝が問題視されるのは、結局のところ、安倍晋三個人が非合理的な信念を総理大臣という職を利用して実現しようと見られているからだと思う。
靖国神社参拝が中国、韓国だけではなく、米国を含めて国際的に非難されているのは、彼に対する国際的な信頼性の低さが原因である。靖国神社参拝が問題視されるのは、靖国神社がA級戦犯を合祀しており、参拝が東京裁判の否定を表現していると見られているからである。これまで米国政府は表立って首相の靖国神社参拝を非難してこなかったが、基本的には反米的な行動と捉えているはずである。中曽根首相や小泉首相の靖国神社参拝に米国政府が注文をつけなかったのは彼らが米国政府から信頼されていたからであり、まだ信頼されていない安倍首相の参拝は非難された。
政府には一定の秘密保護が必要なのは明らかである。しかし、秘密保護法への反対には、安倍首相は何をやるかわからない、という国民の不信感が背景にあったと思う。
「アベノミクス」は一定の効果があり、民主党政権よりは明らかに実務能力が高い。しかし、安倍政権の経済政策以外の側面は不人気である。安倍首相は、経済政策で得た政治的資産を利用して不人気な政策を実現しようとしている。しかし、舵を切るのはまだ早かったのではないだろうか。また、第一次安倍政権の歩んだ道に戻るのだろうか。