夏の夕暮れの至福:トム・コリンズを飲む

季節とお酒

たまに「お酒は何が好きか」聞かれることがあるけれど、いつもなんと答えてよいか迷ってしまう。結局「季節、気候、場所、料理次第かなぁ」と曖昧に答えてしまうことが多い。

寒い季節には身体を温めてくれるお酒がいいけれど、暑くなってくるとすっきりとしたお酒が飲みたくなる。今はどんなお酒がおいしいかなぁ、とあれこれ想像を巡らすのがとても楽しい。

もちろん、ビールがおいしい。炭酸の刺激と苦味が爽やかだ。

最近、Facebookで、夏のカクテルの作り方を紹介するショート・ビデオが送られてくる。それがいちいちおいしそうで、酒欲をおもいきり刺激される。特に、ジン、レモン、ソーダで作るトム・コリンズがさっぱりとしておいしそうだった。

cooking.nytimes.com

夏の夕暮れの至福、トム・コリンズを飲む

さっそくトム・コリンズの材料一式を揃えた。

タンカレーのジンを買って、冷凍庫に放り込んでおく。カナダドライのクラブソーダは冷蔵庫に常備。シロップはアイスコーヒー用のものを転用。あとは、レモンと氷があれば準備OK。

金曜日の夕方、会社の机の上を片付けて退社するときには、もう、家に帰って飲む一口目のトム・コリンズのことで頭がいっぱいになっている。

家に着き、着替え終わったら、取るものとりあえずトム・コリンズの材料一式をカウンターに並べる。レモンを絞ると、さわやかな香りがキッチンに広がる。ソーダを注ぎ、軽く混ぜる。もう待ちきれず、立ったまま一口すする。

レモンの酸味、ソーダの刺激、ジンの苦味、シロップの甘味、氷の冷たさが口の中に広がる。

至福。

酒飲みの言い草だけど、レモンでビタミンを摂取できるし、ジンは蒸留酒だし、一杯のトム・コリンズはむしろ身体にいいに違いない。

トム・コリンズのレシピ

 ニューヨーク・タイムズのレシピはシェイクしているけれど、シェイカーは持っていないので簡略に作っている。レモンサワーをジンで作るようなものですな(あ、逆か、レモンサワーがトム・コリンズの焼酎版か)。

材料 
  • ジン 2オンス:タンカレーのジンを使った(お好みのジンで)。
  • レモン 1/2個
  • クラブソーダ 100ml:カナダドライクラブソーダを使った(甘みのない炭酸水であればなんで)。
  • シロップ ティースプーン 1杯:キーコーヒーのアイスコーヒー用のシロップを使った(甘みのみのシロップならなんでも)。
  • 氷 グラス1杯分:近所のセブン・イレブンで購入。
作り方
  1. 背の高いグラス(あらかじめ冷凍庫に入れて冷やしておく)に氷を入れて、軽くかき混ぜて氷をなじませる。
  2. ジンを2オンス(メジャーカップの大きい方)計ってグラスに入れる。
  3. レモンを半分に切り、絞る。それをグラスに入れる。
  4. シロップをティスプーン1杯計ってグラスに入れる。
  5. よくかき混ぜる。
  6. クラブソーダをグラスいっぱいになるまで注ぐ(ゆっくりと)。
  7. 炭酸が飛ばないように軽くかき混ぜる。
  8. いただきます!

 

キリン タンカレー ロンドン ドライジン 47.3度 750ml
 

 

 

ナガオ 18-8ステンレス メジャーカップ 45&30cc 燕市製

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「找自己」(「自分を取り戻して」)陶喆(David Tao)

第二外国語としての中国語

大学の第二外国語で中国を選択していた。

学生時代(1980年代後半)、上海と杭州を旅行した。神戸から鑑真号というフェリーに乗って上海に着いた。そのころの中国は、改革開放時代に入っていたけれど、まだまだ文革の香りがして、外国語はほとんど通じなかったから、第二外国語の中国語が役に立った。

会社に入ってすぐ(1990年代前半)、雲南省を旅行した。昆明から大理、麗江までバスに揺られた。麗江の旧市街地はまさにシャングリラだったけれど、旅行している外国人は中国語が堪能なドイツ人バックパッカーか香港の若者ぐらいで、やはり第二外国語の中国語が役に立った。

今では、上海は現代の大都市になり、麗江世界遺産の人気の観光地になっている(隔世の感)。

中国語のブラッシュアップ

当時はサバイバルできる程度の中国語はできていた(らしい)。それ以来、中国語は放置していて、すっかり忘れてしまった。

去年の夏、香港に旅行するときに、広東語の入門書を一冊ななめ読みをした。覚えたフレーズを話したら一応通じたけれど、相手の返事がさっぱりわからなかった。ちょっと悔しくなって、中国語(普通語)と広東語をブラッシュアップすることにした。

初級から中級に入るためには、ボキャブラリーを増やす必要がある。覚悟を決めて毎日少しずつ単語を覚えるようにしている。

中国語圏のポップカルチャー

勉強をしているだけでは楽しくないので、中国語圏のポップカルチャーでお気に入りを作りたいと思っている。しかし、韓流に比べると、中国語圏のポップカルチャーは日本での情報量が少ない。スカパーでCCTVを見ているけれど、わりと「お硬い」番組が多くて、現代の中国語圏のポップカルチャーにいまひとつ触れることができない。

そう思いながらCCTVを見ていたら、陶喆(David Tao)の「找自己」とうい曲のPVが流れてきた。曲も歌詞も気に入ったので、Wikipediaで調べてみたら、香港生まれで台湾で活躍している歌手だった。一青窈も推している人だという。

David Tao - Wikipedia, the free encyclopedia

「找自己」(「自分を取り戻して」)陶喆(David Tao)

ちょっと怪しいけれど、「找自己」の歌詞を翻訳して紹介しようと思う。


陶吉吉 找自己KTV

baike.baidu.com

「自分を取り戻す」陶喆

昨夜、こんな夢を見た

サハラ砂漠に行って

太陽の下にひとりきりでいる

摂氏66.6度

目があっという間に焼き付く

突然、大雨が降ってくる

雨が汗を流してくれる

40日間の苦しみが終わり

砂漠のオアシスに変わる

虹の下の大樹に

リンゴがひとつなっている

一口かじったとたんすべてがわかる

この美しい世界で自分を取り戻す

 

ララ ララララ 雨が降っている

ララ ララララ 雲が泣いている

ララ ララララ 雨粒が心にしみる

想像しているだけなんだ

ただ妄想しているだけなんだ

ララ ララララ 雨でずぶぬれにさせてくれ

もう一度、もう一度だけ

この美しい瞬間に自分を取り戻したい

 

バスの中にすし詰めになって

毎日規則正しく出勤してる

こんなに多くの人はどこに行くのか

みんな救いようがない顔をしている

パパとママにはもう愛情はない

これが本当の人生なの?

もう一度、もう一度だけ

この美しい世界に逃げ込みたい

軒先で雨宿りして

シーツにくるまって寝る

雨音を聴きながら

 

ララ ララララ 雨が降っている

ララ ララララ 雲が泣いている

ララ ララララ 雨粒が心にしみる

想像しているだけなんだ

ただ妄想しているだけなんだ

ララ ララララ 雨でずぶぬれにさせてくれ

もう一度、もう一度だけ

この美しい瞬間に自分を取り戻したい

離脱派は愚かだったのか

離脱派へのネガティブ・キャンペーンと実態

EU離脱に関する国民投票の結果、イギリスはEUから離脱することになった。その直後、残留派から離脱派に対するネガティブ・キャンペーンがいっせいに始まった。

彼らの主張を読むと、離脱派の人々は「イングランド(とウェールズ)の地方部に住み、高齢で低学歴、低所得の労働者階級であり、移民へ人種差別をしており、政治的意図があるポピュリストの政治家の扇動に騙され、EU離脱による影響を理解せず離脱に投票したものの、投票後冷静に考えてみるとEU離脱が合理的でないことに気がつき、今は後悔している」そうだ。

本当か?

EU離脱はイギリスの国論を二分する問題であり、残留、離脱のそれぞれにそれ相応の根拠があると思うのだが、残留派の離脱派に対する差別的な視線は非常に感じが悪い。更に悪いことに、残留派は離脱派が人種差別的だと非難しつつ、自分自身が差別的だということに気がついていないように見える。

さすがに離脱派に対するネガティブ・キャンペーンが目に余ることもあり、離脱派の実態を紹介する記事も目につくようになり、私自身はちょっと安心した。

www.newsweekjapan.jp

bylines.news.yahoo.co.jp

Brexitは不可避か

Brexitについてさまざまな評論、論考があるけれど、私がいちばん納得できたものは、これである。

www.rieti.go.jp

この論考は国民投票直前に書かれたものだが、そのなかで「6月23日の国民投票でイギリスのEU離脱の有無は取り敢えず決着する。しかし、EU残留となっても、将来的にイギリスがEUを離脱する可能性は消滅しない。それどころか、むしろ強まっていくと予想される。」と述べている。私も国民投票前まったく同じことを考えていた。

冷静に比較してみると、離脱派残留派もEUに対する態度には大差はないことがわかる。

残留派は主としてEU共同市場から離脱することの経済的なデメリットを強調していた。彼らもこれからEU統合が進むことについて肯定的な主張をしていた訳ではない。キャメロン首相は、イギリスが特別扱いされるようにEUと交渉した成果を強調していた。

 離脱派もEU共同市場に参加していることのメリット、そこから離脱することのデメリット、リスクについて一定の理解はあったのだと思う。しかし、EUに加盟していることのデメリットの方が大きいと考えている。

結局、離脱派残留派もEU共同市場は経済的なメリットは大きいと考えているが、EUそのものについてはいい印象を持っていない。国民投票は、EU共同市場にとどまるために、気に入らないEUにがまんするか、がまんしないか、という選択だったのだと思う。

もし、今回は残留派が勝利していたとしても、EU統合がさらに進めば、EUから離脱すべきと考えるイギリス国民は増えただろう。

EUは改革できるか

イギリスに限らず、EUはあまり人気がないようだ。

イギリスの離脱に続き離脱の連鎖を防ぐために、イギリスとの離脱交渉においてEU側は厳しい姿勢で臨むのではないかという観測がある。合理的に考えれば、EUにとってもイギリスとの経済的な障壁は低いほうがメリットがあるはずだ。しかし、そのような「甘い」合意をしてしまうと、離脱の連鎖を促進するから、「厳しい」態度で臨むという予測である。

しかし、離脱したメンバーに嫌がらせをして、他のメンバーが離脱を思いどまるように強いる組織は、まともなよい組織と言えるのだろうか。そんな組織から離脱したいと考えるのは当然ではないか。EU自体もイギリスの残留派と同じく非常に感じが悪い。

むしろ、イギリスが離脱し、その他の国の国民からも人気が下がっている現状を直視して、EUの改革の契機とすることこそが必要なことではないだろうか。

最高のNBAシーズン:レブロン時代の頂点

しばらく寝かせてからブログに書く

ここのところ、毎週日曜日にブログを書くようにしている。

ウィーク・デイにブログのネタを思いつくと、はてなブログにタイトルと概要を書いてをドラフトとして保存するようにしている(そうしないとすぐ忘れてしまう)。週末、ドラフトのなかから実際にブログとして仕上げるタイトルを選んでいる。週一回の更新だと、実際にブログにするタイトルより、ドラフトとして保存するタイトルの方がずっと多くて、現在15本のドラフトがたまっている。

どんどん新しい事件が起き、新しいタイトルを思いつくから、保存しているドラフトの鮮度はあっという間に失われていく。しかし、このブログはしばらく時間が経ってから「記録」として(主に自分自身が)読み返すことを想定しているから、鮮度はあまり重要ではないと考えている。むしろ、しばらく寝かせて、鮮度が失われてもなおかつ書く意味があると思えるタイトルを書こうと思っている。

鮮度という意味では、Brexitについて書くべきなのだろうけれど、まだ生々しすぎる。今日は先週決着がついたNBAファイナルについて書こうと思う。

最高のNBAシーズン

1990年代から断続的にNBAを見ているが、自分にとって今年はそのなかでも最高のシーズンだった。

1990年代以降のNBAの歴史を大雑把に分類すると、1990年代はマイケル・ジョーダン時代、2000年代はコービー・ブライアント時代、そして、2010年代はレブロン・ジェームス時代となる。そして、今シーズンはコービーの引退ツアーに始まり、カリーとウォリアーズが新しいスタイルのバスケットを見せてくれて、ファイナルのウォリアーズとキャブスの試合は中身が濃く、特に第7戦ははげしかった。贅沢なシーズンだった。

ジョーダン時代に比べると日本でのNBAの人気は下がっているように思うけれど、最近のNBAは、プレーの質に関してはずっと充実しているので、見逃すのはもったいないと思う。

レブロン時代からカリー時代へ?

ウォリアーズは、昨シーズンファイナルでレブロンのキャブスに勝って優勝し、そのままの勢いで今シーズンはレギュラー・シーズン最多勝記録を更新、カリーが満票でMVPを獲得した。

カリーのハイライトビデオのリンクを貼ってみた。彼は、とにかくドリブルでディフェンスを外すのがうまく、遠くからのシュートが驚くほどよく入る。ハイライトに取り上げられているプレーの中では地味かもしれないけれど、12位(4:18〜)のプレーは、ディフェンスの外し方とシュートのうまさがよく表現されたカリーらしいプレーで好きだ。

レブロンは、地元のキャブスに戻ってファイナルで優勝することを残りの選手人生の目標に掲げていたが、昨シーズンのファイナルでは、刀折れ矢尽きる形でウォリアーズに敗れた。

レブロンがこれから大きく成長することは難しいけれど、カリーとウォリアーズは伸びしろがあるから、彼の目標は達成するのが難しくなっり、このまま、レブロン時代が終わり、カリー時代になってしまうのか、と思っていた。


Stephen Curry's Top 30 Plays of the 2015-2016 Regular Season!

レブロンのハードワーク

しかし、キャブスが1勝3敗になってからのレブロンはすばらしかった。特に、彼のハードワークぶりが強く印象に残った。

両チームを通じてレブロンのプレイタイムがいちばん長い。オフェンスではドリブルをしてボールを運び、アシストのパスを出し、ここぞというところでは一対一の勝負を仕掛ける。アウトサイドからのシュートもあり、インサイドに切り込むこともある。

特に、カリーと一対一になったときには、どんどん身体をぶつけていき、体格に劣るカリーはかなり苦しそうだった。第6戦ではカリーはレブロンとの一対一でファウル・トラブルに追い込まれていた。ディフェンスでもリバウンドを競り、ブロックショットを決めた。カリーに対してもファイナルで6回ブロックをしている。この二人でのマッチアップでは完全にレブロンが上回っていた。


LeBron James - All 6 Blocks On Stephen Curry (2016 NBA Finals) ᴴᴰ

ファイナルを通じていちばん印象に残ったレブロンのプレーは、第7戦の終盤にイグダラのレイアップを防いだブロックショットだった。ファイナルの試合は日本時間だと午前中なので、会社から帰ってきた後に録画したものを見ていた。結果はわかって見ているのだけれども、第7戦はドキドキしたし、このプレーが出た瞬間は息を飲んだ。


LeBron's Clutch Block on Iguodala | Cavaliers vs Warriors - Game 7 | June 19, 2016 | 2016 NBA Finals

記憶に残るシーズン

何年かに一回、記憶に残るシーズンがある。

例えば、2009年、松井秀喜ワールドシリーズMVPを獲得し、最後にヤンキースがワールドチャンピオンになったシーズン。2013年、田中将大が無敗で楽天を日本一に導いたシーズン。

今年のNBAは記憶に残るシーズンになった。

テレビ報道の公平性

BBCの「EU離脱」に関する報道

NHK-BSやスカパーでBBCのニュースをよく見ている。最近は、当然ながら「EU離脱」に関する報道が多く、なかなか興味深い。

BBCとしては「EU離脱」に対して中立的な立場を保っている。残留派、残留派の双方の政治家に対するインタビューも多い(なかなか厳しい質問をする)し、それではなく、市井の人々の意見も丹念に取材している。例えば、ある日のニュースでは、農家の「EU離脱」に関して異なる立場の農家を取材していた。

イギリスのなかでもかなりの大規模の農家で、東欧からの農業労働者を雇用している。実際にジャガイモを選別するラインで働いている農業労働者の様子も取材しており、彼らに対してインタビューもしていた。この農家は、自ら東欧の農業労働者を雇用するだけではなく、他の農家へ農業労働者を斡旋するビジネスもしている。この農家(農家というよりは農業経営者といった方がよさそうだが)は、当然、ヨーロッパのなかで自由に人間が移動できるEU残留に賛成している。

次に紹介された農家は、EU共通農業政策に不満を述べていた。EUは手厚い農業保護政策で知られているが、環境保護政策にも熱心で、補助金の見返りに作付る農作物や農法にさまざまな制約がある。この農家はその規制に反対しており、EUから離脱してイギリスとしての望ましい農業政策を実施すべきだと主張していた。

手厚い共通農業政策の継続を望む農家が多いのだろうかと漠然と考えていたけれど、別の観点からの賛否があることがわかり興味深かった。

日本のテレビ報道だったらどうなるだろうか

いま紹介した二つの農家の報道のように、連日、さまざまな観点でEU離脱に関する情報が提供されている。私は投票する訳ではないけれど、イギリスのさまざまな側面についての理解が深まった。

日本のテレビで、このように広く、深い報道ができるだろうか。正直に言って、大いに疑問がある。

例えば、安全保障法制が審議されていたとき、日本の安全保障について理解を深める絶好のチャンスだったけれど、BBCのように「広くて深い」報道ができただろうか。例えば、賛否双方の立場からの主張をじっくりと(きびしい質問も含め)聴くインタビューができていただろうか。また、安全保障法制は諸外国と深い関わりがあるけれど、米国、中国、台湾、韓国(北朝鮮は難しいだろうけれど)、ASEAN諸国の政治家、有識者の意見などは紹介されていただろうか。まったく不十分だったと思う。

テレビ報道の公平性の確保

政府や自民党がテレビ報道の偏向を問題視し、報道内容に介入していると言われている。実際にどこまで介入されているのかわからないけれど、客観的に見て民放のテレビ報道は偏向していると思う。少なくとも、BBCのように報道の公平性を担保しようとする配慮に欠けていることは明らかだろう。

BBCのキャスターは基本的になにかの問題に対する見解や是非は述べない。また、日本の民放の報道番組のような「コメンテーター」は登場しない。事実を伝え、また、専門家や政治家などに対するインタビューを放映する。場合によってさまざまな立場の論者を集めた討論を報道することもある。

放送時間は有限だからすべての出来事を報道することはできない。どのニュースを取り上げるか、その選択する時点で恣意性は排除できない。だから、BBCも完全な報道の公平性を確保することは不可能だ。また、インタビューも編集をしているから、そこに意図が入り込む可能性がある。しかし、仮に「偏向している」という指摘があった場合、それに対して「このように公平性を確保している」と説明はできるようにしている。

日本の民放の報道番組は、BBCに比べると素朴すぎるように思う。ある一定の政治的立場の「コメンテーター」のコメントを中心に放映すれば、「偏向している」という批判を招くし、それに対して正面切って反論するのは難しいだろう。

政府や自民党の介入に対する反対はあっても、自らの報道番組が変更していないという反論は目にしない。

テレビ報道の偏向の原因は何か

それでは、なぜ、日本の民放のテレビ報道は偏向するのだろうか。私はテレビ報道制作の内側についてはまったく知らないから、これから書くことはあくまでも推測である。

日本の民放テレビ局は、新聞社の系列となっている。新聞社は放送局と違い法律で報道の公平性を求められることはない。実際に、それぞれの新聞社で一定の政治的な立場がある。テレビ局の報道については、それぞれの系列の新聞社の影響を強く受けているように見える。例えば、系列の新聞社のOBが「コメンテーター」になることが多く、出身の新聞社の傾向に沿ったコメントをすることが多い。

そして、やはり、BBCに比べると、日本の民放の報道の現場は、予算、人材、時間が圧倒的に限られているのだと思う。最初に紹介したBBCの農家に関する報道は、かなり手間をかけて丁寧に作られていた。現状の日本の民放ではそこまでの取材をするのは厳しいのだろうと思う。できて街頭インタビューや世論調査の紹介ぐらいで、多様な人々の意見とその背景をしっかりと報道することはできない。そして、「コメンテーター」のコメントに頼るのは、結局のところ、それが安上がりだからなのではないか。

そう考えると、民放のテレビ報道が、政府や自民党に対して「偏向していない」と正面切って反論できる日は来そうにもない。

一視聴者として

私個人、一視聴者としては、テレビの報道が偏向していることはあまり気にならない。新聞社も含め、基本的にはすべてのジャーナリズムは多かれ少なかれ偏向しているものだと考えている。その前提に立って、さまざまな立場の報道を比較して自分なりの理解を得ることがリテラシーだと思う。

日本の民放の報道はそれぞれの立場から偏向しているけれど、大きく見れば日本の報道全体が一定の方向に偏っている。また、もちろん、BBCも含め諸外国の報道は、それぞれの方向に偏っている。

世界のニュースを解説を付けずに最低限の編集をしただけで放送しているNHK BS「ワールドニュース」はそれぞれの国の報道の違いがよくわかって興味深いし、リテラシーを養うために非常によい番組だと思う。放送される国の数も徐々に増えており、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、スペイン、中国、韓国、カタール、インド、ブラジル、オーストラリア、シンガポール、香港、インドネシア(見落としている国もあるかもしれない)のニュースが放送されている。

東アジア、東南アジア関係のニュースは、シンガポールの放送局はバランスの取れた見方をしていると思う(日本、中国、韓国、香港の報道は多かれ少なかれ党派的な色合いが強い)。また、ブルームバーグは、すべてのニュースを経済への影響という観点からのみ語り、また、さまざまなデータのチャートの紹介が充実していて、他のニュースで見ることができない個性がある。インドのニュースを見ると、その他の国の放送局ではまったく紹介されないニュースが報道されていて、世界は広いとしみじみ思う。

ベン・フォールズを全部聴く:平凡さを「ロック」する

ベン・フォールズを全部聴く

今年に入っていから、Google Play Musicで特定のミュージシャンの音源を「全部聴く」ということをしている。

これまで、ビートルズとメンバーのソロ活動、トーキング・ヘッズとデイヴィッド・バーンとトム・トム・クラブ、プリンス、そして今、ベン・フォールズベン・フォールズ・ファイブを全部聴き終わったところだ。 

yagian.hatenablog.com 

yagian.hatenablog.com

 好きな楽曲、ミュージシャンはたくさんあるけれど、改めて「全部聴く」ことで、私自身が今いちばん共感できるミュージシャンはベン・フォールズなんだ、ということを再確認した。

シンプルなセットで演奏力が高いバンドが好きだ。ベン・フォールズはギター抜きピアノ、ベース、ドラムのトリオで最高に「ロック」している音楽を聴かせてくれる。

特に、ベン・フォールズがソロ時代のライブツアー「ベン・フォールズ・ライブ」では、サポート・メンバーなしで、ベン・フォールズひとり、ピアノ一台で演奏している。これは最高にロックしている。


Army - Ben Folds Live

同級生のロック・ミュージシャン:カート・コバーンベン・フォールズ

ベン・フォールズに共感するのは、音楽が気に入っているからだけではなく、彼の人生や歌詞に自分を重ね合わせることができるからだ。

ベン・フォールズは1966年9月生まれで、私と日本の学年でいうと同級生にあたる。彼が同世代ということで共感できるところがあるのだろう。しかし、カート・コバーンも1967年2月生まれで同級生なのだが、あまり共感できない。

カート・コバーンは自分が「ロックスター」になることに強く抵抗していたけれど、それと裏腹に「ロックスター」のステレオタイプをなぞるような人生を歩み、若くして自殺してしまった。そういう彼の苦しみは理解できないわけではないけれど、深く共感するかといえば、やはりそうではない。

カート・コバーンが自殺するのが1994年。一方、ベン・フォールズは世にでるまで時間がかかり、ベン・フォールズ・ファイブのデビュー・アルバムが出せるようになったのはカート・コバーンの死後の1995年だった。

ベン・フォールズの音楽は個性的ですばらしいと思うけれど、外見も含めて「ロックスター」としての魅力に欠ける。ややあがった額をぼさぼさに伸ばした髪で隠し、メガネをかけている。Tシャツやネルシャツとジーンズを無造作に着たファッションはグランジといえなくもないけれど、彼はギークにしか見えない。

カート・コバーンと比べ、彼は伝説的な死を遂げることはなく、デビューしてから今まで紆余曲折しながら音楽活動を続けている。若いころは自分の非「ロックスター」性を自虐したような曲も多かったけれど、歳を経て歌詞も曲調も変化してきている。

彼がアルバムを出すたびに聴き、また、日本に来日するたびにライブに足を運び、彼もいろいろあるけれどがんばっているんだよな、と思う。これまでも彼と伴走してきたような気持ちがあり、おそらく、これからもそのようにして彼の音楽を聴き続けるのだろうと思う。

平凡さを「ロック」する:"Rockin' the Suburbs" 「住宅街をロックする!」

ベン・フォールズは、ベン・フォーズル・ファイブ(「ファイブ」といいながらトリオのバンド)でデビューし、このバンドが活動停止をしている時期にソロ活動をしている。

ソロとしての第一作のアルバム"Rockin' the Suburbs"の表題作の歌詞を紹介したいと思う。平凡さを「ロック」した、彼の非「ロックスター」性についての歌だ。


Ben Folds - Myspace Gig - Rockin' the Suburbs

"Rockin' The Suburbs"

「住宅街をロックしてやる」

Let me tell y'all what it's like

教えてやるよ

Being male, middle-class and white

中流の白人男性ってどんなものか

It's a b*tch, if you don't believe

最悪だぜ、信じないかもしれないけど

Listen up to my new CD (Sha-mon)

オレのニューアルバムを聴いてくれ(Sha mon)

 

I got sh*t runnin' throught my brain

どうでもいいことが頭を駆けめぐり

It's so intense that I can't explain all alone in my white-boy pain

オレの白人の痛みを自分ひとりで説明なんかできない

Shake your booty while the band complains

バンドが文句を言っている間に、お前らはケツを振れ

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる

Just like Michael Jackson did

マイケル・ジャクソンみたいにな

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる
Except that he was talented

ヤツには才能があったけど
I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる
I take the cheques and face the facts

オレは金を受け取って

That some producer with computers fixes all my sh*tty tracks

プロデューサーがコンピューターでオレの曲をいじりまわす

 

I'm p*ssed off but I'm too polite

ムカついたけど、お行儀よくしてた
When people break in the McDonald's line

マクドナルドの行列に割り込まれて
Mom and Dad you made me so uptight

ママとパパのしつけのせいで
I'm gonna cuss on the mic tonight

今夜はマイクで叫んでやる

I don't know how much I can take

どれだけやれるか自分でもわからない
Girl, give me something I can break

そこの娘、オレにぶっこわすものを渡してくれ

 

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる
Just like Quiet Riot did

クワイエット・ライオットみたいに

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる

Except that they were talented

ヤツらには才能があったけど

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる
I take the cheques and face the facts
オレは金を受け取って

That some producer with computers fixes all my sh*tty tracks

プロデューサーがコンピューターでオレの曲をいじりまわす

 

In a haze these days

最近ぼんやりしながら

I pull up to the stop light

ステージに上ってる
I can feel that something's not right

なにかまずい感じ

I can feel that someone's blasting me with hate

誰かがオレに憎しみを爆発させてるみたいだ

And bass

ベースが
Sendin' dirty vibes my way

オレにへんなノリを送ってくる

'Cause my great great great great Grandad

オレのひいひいひいじいさんが

Made someones' great great great great Grandaddies slaves
誰かのひいひいひいじいさんを奴隷にしたからって

It wasn't my idea

オレには関係ない

It wasn't my idea

オレには関係ない

Never was my idea

ぜんぜん関係ない

 I just drove to the store

オレは薬局まで
For some Preparation-H

痔の薬を買いに行っただけなんだ

 

Let me tell y'all what it's like

教えてやるよ

Being male, middle-class and white

中流の白人男性ってどんなものか

It gets me real p*ssed off, it makes me wanna say

マジでうんざりするぜ、

F*CK!

ファック!

 

Just like Jon Bon Jovi did

ボン・ジョビみたいに

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる

Except that they were talented

ヤツらには才能があったけど

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる
I take the cheques and face the facts
オレは金を受け取って

That some producer with computers fixes all my sh*tty tracks

プロデューサーがコンピューターでオレの曲をいじりまわす

 

These days

最近

Yeah yeah

イェィ、イェィ

I'm rockin' the suburbs

住宅街をロックしてやる

 

You'd better look out, because I'm gonna say 'F*ck'

よく見てろ、ファックって言ってやる!

クラシックカーとなることを拒絶するクルマづくり

クラシックカーのリストア番組でトヨタ車が取り上げらることはほとんどない

以前のエントリーで、「ディスカバリー・チャンネル」(https://japan.discovery.com/index.html)で、クラシックカーをリストアすることをテーマとする番組がたくさん放映されており、特に「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」(https://japan.discovery.com/series/index.php?sid=1036)が気に入っていると書いたことがある。

この番組はイギリスで制作されているから、当然イギリス車が多く取り上げられている。そのほか、ドイツ車、イタリア車、フランス車、スウェーデン車などのヨーロッパ車、そして、アメリカ車も取り上げられることが多い。それらに比べると日本車が取り上げられることは圧倒的に少ない。

日本車で取り上げられたものとしては、日産GTR、240Z(フェアレディZ)、マツダRX-7、スバルインプレッサなど、安くて速いというイメージがあるクルマが取り上げられている。トヨタ車が取り上げられることはほとんどない。

yagian.hatenablog.com

トヨタ車のテクニカル市場の圧倒的な占有率と実用性の高さ

クラシックカー番組で取り上げられないといっても、トヨタ車が中古車市場でリセールバリューがないか、というと、そんなことはない。

アフリカや中東の戦場でよく使用されているピックアップトラック重機関銃や無反動砲を据え付けた車両を「テクニカル」と呼ぶそうだ。テレビでの報道で映るテクニカルを見ると、トヨタ車の比率が非常に高いことに気が付き、インターネット上のテクニカルの画像を集めたことがある。一目瞭然だが、トヨタ車の市場占有率は圧倒的である。

テクニカル市場では、究極の実用性、費用対効果が求められる。その市場での圧倒的な占有率は、耐久性や修理部品の入手可能性なども含めたトヨタ車の極めて高い総合的な実用性を証明しているのだと思う。

jp.pinterest.com

トヨタユニクロの共通性:クラシックカーとなることを拒絶するクルマづくり

私自身は、実用的な意味では自動車が必要ない生活をしているので、自動車を持っていないし、当面買う予定もない。しかし、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」を見ていると、実用性度外視で欲しいと思うクルマもある。当然、実用的な性能は新車と比較すればクラシックカーは劣っているが、クラシックカーには実用的な性能とは別の価値がある。

トヨタ車の実用的な価値は世界的に認められ、多くの中古車が流通しているけれど、クラシックカーとして認められないのは、そもそもトヨタのクルマづくりが、実用的な性能とは別のクラシックカー的な価値を拒絶しているのではないかと感じることがある。そして、その姿勢は、ユニクロに共通するものがあるように思う。

ユニクロの服にはファッション性はない(というと言い過ぎだとすれば、ファッション性が乏しい)が、ヒートテックに代表されるように機能性の高さがウリである。それまで機能性が高い服といえば、スポーツウェアメーカーのもので、価格もそれなりに高かった。ユニクロはファッション性はないけれど、手頃な価格で機能性が高いという新しいポジショニングで成功した。私自身、ユニクロのアウターは買う気がわかないけれど、インナーはユニクロ率が高い。

もし、生活の変化があって実用的な意味でクルマが必要になるとしたら、何を買うのか想像することがある。費用対効果を追求すると、ユニクロのインナーを買うように、中古のヴィッツを買うことになるかもと思うことがある。おもしろさやファッション性はないけれど、車輪が四つ付いていて、高速道路も安全に走れる、移動のための実用性という意味では必要十分ではないか。

実用性とクラシックカー性はトレードオフなのか

ユニクロの服は、それほどコストアップしなくても、もうちょっとファッション性を高めることができるような気もする。機能性も高く、ファッション性もあって、値段も手頃になればもっと売れるようになりそうだし、なぜそうしないのかな、と思うこともある。しかし、仮にユニクロがファッション性を高めると、逆に売上が下がってしまうのだろう。

ユニクロのユーザーは、そもそもユニクロにはファッション性を期待していない。洋服のファッション性に無関心な人は多く、そのような人にとっては「おしゃれな店」は入りにくい。だから、ユニクロがおしゃれになると、そのようなユーザーが離れていってしまう。だからユニクロはあえてファッション性を高めないようにしているのではないだろうか。

トヨタ車がクラシックカーとして評価されるクルマを作らないのは、同じような配慮があると思う。トヨタ的実用性とクラシックカー性はにトレードオフがあるのだろう。トヨタは、クラシックカーになるようなクルマを作ることは、トヨタユーザーの拡大に結びつかないという判断を下しているのかもしれない。

「日本的ものづくり」?

実際、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」に取り上げられているイギリス車のメーカーの多くは、「クラシックカー性」によってブランドは存続しているけれど、会社自体は買収されている。だから、カーマニアには評価されないかもしれないけれど、トヨタのポジショニングはひとつの選択肢なのだろう。

あまり根拠なく「日本的なんとか」ということを言うのは好きではないのだが、トヨタユニクロのようなポジショニングは、海外から見た日本のステレオタイプのひとつになっているような印象がある。