相場と戦争:高橋是清自伝(2)
前回のentry(id:yagian:20140602:1401656704)に引き続いて「高橋是清自伝」について書こうと思う。
高橋是清の生涯で一般的に有名なできごとは、日露戦争中の外債の募集、金輸出再禁止などのいわゆる「高橋財政」、2.26事件での暗殺だろうか。「高橋是清自伝」は下巻の後半で外債募集の経緯について詳しく書かれている。
私も含め多くの人が疑問に感じていることだと思うが、日露戦争はきわめてriskyではあったけれど思慮深い戦争指導が行われていたことに対して、日中戦争から太平洋戦争にかけて日本政府は戦略性に欠け無謀だった。その理由のすべてを説明できる訳ではないけれど、外債募集の経緯は関係があるように思える。
日露戦争当時、日本は多くの兵器、軍需品を輸入に依存していた。その支払のためには外貨が必要になる。日露戦争の軍需品の輸入をまかなえるほどの外貨準備がなかったから、外貨建ての債券を発行して外貨を獲得できなければ戦争を継続できなくなる。戦争継続のために外債を発行したのは日本だけではなく、Russiaも同様だった。
日露戦争を目的とした外債は、EnglandとAmericaを中心として5回を発行され、いずれも成功した。高橋是清はこの外債発行において大きな功績があったと言われている。たしかに、高橋是清個人に功績があったのは間違いがないが、外債が消化されるかどうかは投資家が日本が債務不履行にならないかという判断に依存する。だから、日本の行動が海外の投資家から見て合理的でかつ説明可能なものでなければ外債の消化が困難になり、戦争は継続できなくなる。「高橋是清自伝」を読んでいると、高橋是清自身は当然ながら、日本政府も海外の投資家への説明責任を考慮しつつ行動していたことがわかる。
一方、日中戦争から太平洋戦争の時は、軍需品の調達は主として日本国内、ないし、日本の勢力圏内から行われていた。その資金は、国内で発行される国債や金融の緩和によって調達され、最終的には戦後のhyper infrationを招くことになる。資金調達において、合理的な説明責任が考慮されていたとは思えない。戦争に対する意志決定も主として国内の政治、勢力争いの結果だった。
国家の意志が国内的な事情だけで決定されるということは危険なことだろう。国際的な相互依存が深く、海外に対して説明責任を求められる状況は、結局のところその国にとっても望ましい行動を導く。企業が社外取締役や株主に制約されることで、短期的には不自由もあるけれど、長期的に見れば望ましい結果をもたらす。
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