身の丈にあった経営をすればいいのでは
オリックスブルーウェーブと近鉄バファローズが合併する構想を発表した。簡単に言えば、親会社である近鉄が、バファローズの赤字を補填する余裕がなくなった、ということが理由のようだ。
この状況に対して、プロ野球全体として戦力が均衡するような制度を導入し、巨人などの一部の球団に収益が偏り、その結果、有力選手が集中することを避けるべきだという議論がある。(例えば、http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh04061501.html)
しかし、戦力を均衡させれば、本当に、野球がおもしろくなるのだろうか。
伝統のある強いチームがあり、他のチームがそれに挑戦する、という構図は、だれにでもわかりやすくおもしろみがある。パリーグがいまより元気があった時期、1990年代の歴代優勝チームを見ると、(http://vitaltrack.hp.infoseek.co.jp/data/data01.htm)西武ライオンズが圧倒的だったことがわかる。実際、パリーグのなかでは魅力ある有力選手は西武ライオンズにかなり集中していたけれど、それが理由でパリーグがおもしろくなかったわけではない。
今でも、パリーグの中で、ダイエーホークスと西武ライオンズの試合は見る気が湧くけれど、この2チームの有力選手が戦力均衡のために分散してしまえば、パリーグでわざわざ見る気が起きる試合がなくなってしまうのではないか。
日本でNBAの人気が高まったのは、マイケル・ジョーダンとシカゴ・ブルズという圧倒的な存在があったからだ。たしかに、戦力が均衡して、毎年優勝チームがかわるような状態は、その競技をよく見ていて詳しい人にとってはおもしろみがある。しかし、そこまでは関心のない人にとっては、何が起こっているのか、わかりにくくしてしまうのではないか。
日本のプロ野球では、経営がきびしい球団が多いという。ごく単純に考えれば、戦力を均衡させるということではなく、それぞれのチームが収入に見あった経営をすればよい、ということになると思う。立地によって収入の格差が生じるのは明らかである。それは、MLBでも、NBAでも変わらない。大都市に立地しているチームは収入が多く積極的に戦力補強ができ、中小都市に立地しているチームは収入が少なく、戦力補強への投資は限られている。中小都市へ立地しているチームがなくなってしまい、大都市だけに集中するかといえば、必ずしもそうではなく、収入に見あった投資で、それなりにチームが運営されている。
野茂のMLBでのキャリアを振り返ればわかりやすいと思う。ドジャースで肩を壊し、メッツにトレードされたが思うような成績が上げられなかった。ドジャースやメッツのような、大都市にフランチャイズがある大球団からは声がかからなくなったが、ミルウォーキーのブリュワーズに移籍することができた。ブリュワーズは、典型的な中小都市の弱小球団で、ここは若手か、もしくは、野茂のようにけがをして再起を目指す選手か、要するに安い選手しか雇えないのである。このチームで、再びよい成績を上げ、タイガースへ。タイガースも、ブリュワーズと同様に、弱小球団である。ここでエースとして働き、再び資金が潤沢なレッドソックスへ移籍ができた。そして、現在はドジャースに戻っている。
広島カープは、明らかに、ブリュワーズ的な球団である。給料が高くなったベテラン選手、川口、江藤、金本を放出し、その代わりに自前の若手選手の育成に力を入れている。もし、近鉄が経営に余裕がなかったのであれば、身の丈のあった経営をすればよい。
と思い、ここまで書いてきて、近鉄の選手の年俸一覧を見た。(http://home.a07.itscom.net/kazoo/pro/pro04/off_bu.htm)
すでに相当リストラをしている。ローズを放出するのもやむを得ないことは理解できた。これ以上、リストラして、経費節減の効果があがる選手は中村紀洋ぐらいしかいない。年間30億円程度、近鉄本社が支援しているというが、選手のリストラでは、がんばっても10億円も減らせそうにない。現状でも、費用対効果が非常に高い岩隈がいるからなんとか試合になっているけれど、彼がいなければ、そうとう悲惨な成績になってしまうだろう。このままであれば、2、3年後には、岩隈を放出せざるを得なくなりそうだ。
そこで、他のチームの年俸も見てみた。(http://home.a07.itscom.net/kazoo/pro/pro.htm)
近鉄、ロッテ、日本ハム、オリックスの4チームは、その他の8チームと年俸の格差が明かである。確かに、身の丈にあった経営をすればいい、というだけでは済まないレベルの問題かも知れない。
この状態で戦力の均衡を図るような制度を導入すると、相当巨額の所得移転をするか、かなり厳しいプライスキャップをする必要がありそうだ。そうなると、日本のプロ野球チームのなかでは、高額な年俸の選手の受け皿がなくなってしまうのではないか。巨人が高額の年俸で選手を集めているという批判がある。しかし、江藤、工藤、ローズ、小久保を雇えるチームは、他には見あたらない。仮に、巨人がそれだけの投資をしなければ、結局、MLBへの選手の流出が加速されたのではないか。MLBという選択肢が現実的になっている以上、日本のプロ野球全体が、魅力的な選手を雇えるだけの収入を得られるパイを確保する必要があるのではないか。また、広島、ダイエー、近鉄、ヤクルトは、巨人が高額な年俸の選手を引き取ってくれるからこそ、やっていけるのではないのか。
それぞれのチームの基礎的な経済力からごく素直に考えれば、セリーグ6球団とダイエー、西武で8チームのメジャーリーグを作るのが自然である。セリーグに、ダイエー、西武が入れば、よりは魅力的なカードが増える。また、ダイエー、西武も、パリーグの他の4球団との試合よりは、おもしろい試合を提供でき、観客動員も、放送権料も増加するのではないか。その結果、ダイエー、西武も、経営が安定して、選手への投資を増やすことが可能になる。
近鉄、ロッテ、日本ハム、オリックスは、残念ながら、各チームの2軍を再編して、自立しうる体制のマイナーリーグを作る。メジャーリーグとマイナーリーグの入れ替え戦をする。
そんな構想がよいような気もしてきた。