チームプレイ

昨日は、朝5時に起きて、ヤンキース対ツインズのディビジョンシリーズ第4戦を見た。早起きする甲斐のある試合だった。
5回まではサンタナとヴァスケスの投げ合いで、それぞれ内容は違うけれども緊張感がある展開だった。
サンタナは中三日の登板だが、チェンジアップが調子よく、ヤンキースのバッターはほとんどハーフスイングの空振りをしていた。それでも、なんとか打ち崩すきっかけをつかもうと、ボールをじっくりと見て、打てるボールを待っていた。打てると思うボールが来たときには、すかさずフルスイングをする。しかし、サンタナも長打になりそうなボールはほとんど投げない。ヤンキースがじわじわとサンタナを追いつめている雰囲気はあるけれど、なかなか得点に結びつかない。かつてのヤンキースの試合でよくあった重苦しい緊張感があった。3回に松井がチェンジアップを打って1点取った(このタイムリーヒットは、いい当たりではなかったけれど、ほとんど唯一チェンジアップを打ったヒットという意味で、すばらしかったと思う)けれど、大量点を取るのは難しい感じで、早くピッチャー交代させたい、という状況だった。
一方、ヴァスケスは、コントロールがばらばらで、失投も多く、いつ打たれるかはらはらしながら見ている状態だった。4回まではなんとか2点に収めていたけれど、ついに5回にはつかまってしまった。もし、左のワンポイントリリーフがいれば、5回途中、点を取られる前にヴァスケスを交代させてもよかったと思ったのだが、ヤンキースの唯一の左のリリーフのハレイディアは、昨日、二人続けてぶつけており、とても出せる状態ではない。結局、5回最後までヴァスケスがなげて、この回に3点取られた。
6回からはツインズがバルフォア、ヤンキースが問題のロアイザがリリーフに登場した。サンタナに球数をなげさせて5回で交代させたのはよかったけれど、バルフォアが調子よく、ちょっと点を取れそうな雰囲気がない。一方、ロアイザは相変わらず身体が重そうなピッチングで、2回で4本のヒットを打たれたが、ツインズの走塁ミスに助けられてなんとか点を取られずに切り抜けていた。7回が終わった時点では、ヤンキースは、今日はなるべくリリーフピッチャーを休ませようという意図が見えた。私も、今年のヤンキースの先発ピッチャーを眺めると、今日のような捨てゲームを作るのはしかたがないと思っていた。
8回になって、ツインズのピッチャーがバルフォアからセットアッパーのリンコンに代わる。先頭バッターのシェフィールドが当たり損ねの内野安打で出塁し、リンコンのワイルドピッチで二塁に進む。ここで、松井は、例によってじっくりとボールをみてフォアボールで出塁し、ゲームの雰囲気が変わってくる。
こういう場面でしっかりフォアボールを選ぶというところが、松井がチームからの信頼を勝ち取っている大きな理由だと思う。確かに、松井の後の打順にいいバッターが並んでいるからこそ、松井があわてて打ちにいかなくてもよいということもある。後ろのバッターが信頼できなければ、松井が無理をして打ちにいかなければならないかもしれない。星陵高校の時代、相手チームは松井さえ敬遠すれば勝てたのだが、ヤンキースでは松井を敬遠しても後ろのバッターも充実している。また、松井がきちんとフォアボールを選ぶことで、松井の後ろを打つバッターは、松井からの信頼感を感じるに違いない。監督から見れば、ランナーをためたい場面で出塁してくれることもありがたいだろうし、チームの中の信頼感を高めてくれることも大いに助かるのだろう。トーレ監督は、松井がチームバッティングをすることをよく褒めるけれど*1、象徴的な場面だったと思う。
そのあと、バーニー・ウィリアムスタイムリーヒット、ルーベン・シエラのホームランで、あっという間に5対5の同点に追いつく。後がないツインズは、8回から抑えのネイサンを出さなければならなくなった。こうなると、立場が入れ替わる。ツインズは、昨日、3回投げたストッパーをもう出してしまっている。ヤンキースは、ヴァスケス、ロアイザという信頼度が低い二人で7回までつなぎ、同点になっている。あとは、ゴードン、リベラが抑えている間に1点を取ればよいのである。
結局、11回表、アレックス・ロドリゲス二塁打を打ち、ピッチャーが無警戒だったので3塁へ盗塁し、ワイルドピッチでホームに戻ってきた。11回裏はリベラが簡単に3人をアウトに取った。
松井に限らずヤンキースの選手たちはチームプレイに徹しているけれど、アレックス・ロドリゲスも地味に、いいプレーをしている。内野ゴロでも常に全力疾走をしているし、併殺を崩すためにつねに二塁へ激しいスライディングをしている。三塁の守備では、スローイングがすばらしい。昨日も三塁線の深い当たりを取って、ジャンピングスローで一塁にいい送球をしていた。
アレックス・ロドリゲスを2番に置けるのは、ほかにも長打力のある選手がそろっているという事情もあるのだろうけれど、出塁率と長打力が高く走れる選手はチャンスを作る確率が高いから、1番や2番に置くのは合理的だと思う。昨日の試合の11回、アレックス・ロドリゲスは理想的なチャンスメーカーとしての仕事をしていたと思う。カージナルスもトレードで獲得したラリー・ウォーカーを2番に置いているのも同じ考え方だろう。
福岡ダイエー・ホークスは、昨日の試合では、1出口、2柴原、3井口、4松中、5城島、6ズレータ、7バルデス、8鳥越、9川崎という打順だった。2番に長打力もある強打者をおくというスタイルだとしたら、1柴原(もしくは川崎)、2井口、3松中、4城島、5ズレータ、6バルデス、7出口(もしくは柴原)、8川崎(もしくは出口)、9鳥越という打順になるだろう。ダイエー打線の中心は、井口、松中、城島の三人である。彼らにより多くの打順を回すことを中心と考えれば、1番、2番に非力な打者をおくのはもったいないようにも思える。1井口、2柴原をバルデスの後ろに置き、1井口、2松中、3城島、4ズレータ、5バルデス、6井口、7柴原、8鳥越、9川崎という打線もおもしろいかもしれない。
さて、ヤンキース対ツインズのディビジョン・シリーズ第4戦を総括しよう。
ツインズに取っての敗因は、ヴァスケス、ロアイザからもっと点を取れるチャンスがあったにもかかわらず、5点しか取れなかったことだろう。リンコンが打ち込まれたのは誤算だったけれど、リリーフ投手の調子が悪いことは確率的に発生して予測できないことも多いので、やむを得ない。ヤンキースの弱点は先発投手と左のリリーフにあり、第四戦はヴァスケス、ロアイザという継投をせざるを得なかったにもかかわらず、それに十分つけ込めなかった。一方、ヤンキースに取っての勝因は、サンタナにプレッシャーをかけて5回で交代させたことだろう。その結果、最後にツインズのリリーフ投手が足りなくなって逆転勝ちに結びついた。
ディビジョン・シリーズに入ってからのヤンキース打線は、チームが一丸となって相手のピッチャーにプレッシャーをかけるという、かつてのヤンキースのスタイルが戻ってきたような印象がある。仮に得点ができなくても、投球数を増やし、よりプレッシャーのかかる場面を作る。ジーター、アレックス・ロドリゲス、松井、バーニー・ウィリアムス、オルルッドは調子がいい。シェフィールドとポサーダは、やや調子が落ちているようにも見えるけれど、まずは心配ないだろう。
しかし、先発投手は、結局、ムッシーナとケビン・ブラウンが頼りということになりそうである。打線が強くないツインズが相手だったからどうにかなったけれど、レッドソックスが相手では、昨日のヴァスケス、ロアイザの調子を見ると、早々に10点ぐらい取られそうである。
リーグチャンピオンシップは、レッドソックスが勝つ場合には4勝1敗ぐらいの一方的な展開になりそうである。ヤンキースが勝つ場合には、7戦のうち、3戦は負け試合として覚悟して、あとの4試合を接戦で勝つしかなさそうである。例によって逆転、延長試合が続いて、4勝3敗で辛勝というところではないだろうか。
確かに、給料は安いけれども元気のある若い選手が勢いに乗って優勝するという姿は、すがすがしく、まぶしい。しかし、訳ありですねに傷があるが、プロフェッショナルな大人たちが困難を乗り越えて優勝するという姿も感動的なのだと思う。トーリ監督が就任した頃のヤンキースは、バーニー・ウィリアムス、ジーター、リベラ、ペティート、ポサーダといった若手が初々しく、その姿を見るのが楽しみでもあった。もちろん、ベテラン選手の大人なプレーもよかったけれど。今のヤンキースは、まぶしいような若手の選手はいなくなり、大人のエキスを濃く煮詰めたようなチームになっている。その中でも苦渋の濃度が濃く、もう、今シーズン限りになってしまうかもしれないシェフィールドやケビン・ブラウン、ジオンビーの姿はしっかりと見ておかなければと思う。