病床川柳

口蓋扁桃摘出術と病床川柳

 三年前のゴールデン・ウィークに、慢性扁桃炎になっていた扁桃を摘出する手術を受けた。詳細は以下のエントリーにまとめている。手術前はよく熱発していたが、今ではすっかり健康になっている。

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手術する以前、やはり扁桃炎で高熱を発して入院したことがあった。入院生活はある意味暇で手持ち無沙汰でもあり、また、その時の気持ちを記録に残しておこうと思い「病床川柳」を書いていた。最近、iPhoneのなかのファイルを整理しているとき、「病床川柳」を書いたファイルを開く機会があった。ふだん、川柳を作っている訳ではないので、まるで自己流のつたないものだけれども、気持ちはよく表現されていると思う。

病院の間引きされたる蛍光灯

これは、入院する時、夜、救急外来の前の廊下のベンチに座っている情景。日中は人が多いけれど、その時間は人気がなく、蛍光灯が間引きされて薄暗かった。熱が出ていて苦しく、早く治療をして欲しいと思いながら順番を待っていた。

点滴の滴る音を幻聴す

入院中の治療の大部分は、抗生物質の点滴だった。点滴液がぽつり、ぽつりと落ちるのを眺めながら、早く終わらないかなと思って待っている時間が長かった。実際には点滴液が落ちる音は聞こえないのだけれども、幻聴するような気分になる。

我もまた 六尺の病床に臥せており

病気で身体が弱ると気も弱くなる。そういうときの心の支えは、正岡子規「病床六尺」だった。彼のように、気持ちを保つことはできないけれど、辛い時は辛いと言っていいんだと思うだけで、ずいぶん気が楽になった。 

病牀六尺 (岩波文庫)

病牀六尺 (岩波文庫)

 

腕に流れる点滴薬涼し

入院中は点滴を注入する針は挿しっぱなしになる。点滴をするとき、その針にチューブを接続する。点滴液が流れ始める時、冷たい液体が身体の中に流れ込んでくるような気がする。点滴液の冷たさで、発熱した身体を冷やすわけではないけれど、少しは涼しくなったような気分がした。

腕に巻く患者番号1993695

入院患者は、リストバンドに書いた患者番号で管理されている。だからといって、非人間的に扱われたわけではないけれど。

食後すぐ横臥し牛になる

扁桃炎で発熱していると、ずっとだるさがあって横になっている。小さい頃、食後すぐに寝ると牛になると言われていたのを思い出して、これではすっかり牛になっているなぁと思っていた。

咳き込みて我も名乗るかホトトギス

咳をすると喉が痛くなって辛い。しかし、咳を止めることができない。最後の方には、喉のどこかが切れて痰に血がまじるようになる。結核だった正岡子規は、血を吐くまで鳴くというホトトギスという意味の「子規」というペンネームを名乗った。これでは、自分もホトトギスのようだと思った。

汗臭きパジャマ脱ぎ捨て風呂に入る

じっとしていて点滴を受けている時間が長い入院生活のなかで、汗を流せる風呂の時間は、待ち遠しかった。

剃り跡の青白き顔を見つめる

朝、洗面所の白い蛍光灯の光の下で鏡に映る自分を見ると、ずいぶんやつれてしまったなぁと思った。

退院の挨拶を聞く次は我か

6人部屋に入っていた。退院のあいさつをして帰っていく人もいる。点滴が効いてきて徐々に熱が下がると、そろそろ退院できるかなと思うようになる。

アームバンドを切り無罪放免

無罪放免、というとお世話になった病院の方々に申し訳ないけれど、退院の瞬間にはやはりこれで解放される、という安堵感はある。