田口選手

昨日、午前中プールに行き、夜は、つれあいとイタリア料理を食べ行き、二人でワインを1本あけた。水泳の疲れのためもあったのか、思いのほか酔ってしまい、家にたどり着いたら、すぐに寝てしまった。さすがに寝る時間が早すぎたので、早朝に目が覚めた。深夜2時から、ヤンキースレッドソックスの生中継があるのを思い出し、テレビをつけると、8回表、2対2の同点だった。
昨日は、朝8時から同じカードの中継があった。先発のホセ・コントラレスが打ち込まれ、早々に試合が決まってしまった。続きを見る気持ちが失せて、プールに行くことにしたのだった。
つれあいは寝ているから、テレビのボリュームを落として、ワイシャツのアイロンがけをしながら見ることにした。8回だから、アイロンがけが終わる前に試合が終わるだろうと思っていたら、結局、延長12回までもつれ、試合が終わる頃には、明るくなっていた。靴を磨く時間もあった。
今年は、ヤンキースのことを書くと、必ず愚痴になってしまう。昨日の試合はあまりにもひどかったが、今日の試合のような負け方もダメージが大きい。今年のヤンキースは、いや、もう、なにも言うまい。
ヤンキースを見限ったというわけでもないけれど、今シーズンは、田口選手とカージナルスを追いかけることにした。といっても、BSではカージナルス戦の中継をほとんどしてくれないし、スポーツニュースでもあまり取りあげてくれないから、動いている田口選手の姿を見ることはあまりできない。もっぱら彼の日記をチェックしている。
この日記は、2002年に彼がカージナルスに入ったときからはじめたもので、2002年、2003年の二年分は、田口壮『何苦楚日記』(主婦と生活社)(amazon:4391129078)として出版されている。これが、実におもしろく感動的だ。
2002年のカージナルスのキャンプで、練習場から出てくる田口選手をインタビューした姿を、テレビのスポーツニュースで見たことを覚えている。イチローのようなカリスマ性はかけらもなく、アメリカになじめず、とまどっているごく普通の日本人といった風情だった。野球選手にすら見えなかった。これでMLBでやっていけるのか、心配になった。
『何苦楚日記』を読むと、そのころ、実際に、アメリカにとまどっている様子が書かれている。キャンプ中の2002年3月13日の日記に、このようなことが書かれている。

 ところで時間があったので散髪に行ってきました。イメージでは横を少し刈り上げて、上は少しだけ切ってムースかワックスをつけて仕上げたら、アメリカの映画俳優になるかと思ったのですが、説明したにも関わらず、出来上がったのは「大工の源さん」でした。僕の語学力はこんなものかと、改めて痛感しました。

田口選手は、英語はそれなりにできるようである。特に、ヒアリングは、はじめからあまり困らなかったという。それでも、こういう日常生活の些細なことがらがままならないことに遭遇する。こういう体験は、慣れないうちは特に、意外なほどダメージが大きいことがある。彼の気持ちがよくわかる。
村上春樹『やがて哀しき外国語』(講談社文庫)(amazon:4062634376)の中にも、こんなくだりがある。

店の売り子に「ホワット?」と大声で聞きかえされたり、自動車修理工場に行っておっさん相手に汗をかきながら訥々と症状の説明をしたり(ウィンカーって英語でなんていうんだっけ?)していると、ときどき自分が情けなくなってくることがある。

それが、今では、すっかりアメリカになじんでいる。ごく最近の2004年4月22日の日記には、このように書かれている。

1点を争うゲーム。途中守備から出て、回ってきた打席はノーアウト2塁。左の代打を出されてしまいました。もう、まじギレ。で、試合後、トニーのところに猛ダッシュ。「なんでやねん!?」と怒鳴り込みです。

まだアメリカになれていなかった頃、『何苦楚日記』2002年6月4日には、こんなエピソードが書いてある。

 実は先日、監督にミーティングで褒められたのですが、僕の真剣な顔を見て、監督は「もしかして怒られていると勘違いしているのでは」と不安になってしまったようなのです。
 ・・・
 監督いわく、「壮は俺が話している間、固まっていた・・・」これも文化の違いかなとつくづく思いました。
 日本人にとって、監督の話は直立不動で聞くようなもの。選手との間にも、かなりの距離があります。でも、アメリカでは監督をファーストネームで呼び、(レッドバーズ*1ではピッツ監督を「チーフ」というあだ名で呼びますが)、用事や言いたいことがあれば、自分から監督室にたずねて行って、あれこれ話します。日本なら、自分から監督に話しかけるなど、挨拶以外はめったいないことです。

マイナーリーグの監督にすら心配されていた彼が、あの、トニー・ラルーサに、自分の起用について文句を言えるようになっている。なんという成長ぶりだろう。そんな彼のことを、もっともっと応援したくなる。メジャー・リーグのなかで試合に出ている田口選手を、ぜひ、この目で見ておかなければと思う。
NHKさん、もう少し、カージナルス戦の中継をしてください。動いているプホルズだって見てみたい。

*1:カージナルスの3Aのチーム、当時田口が所属していた