読書

「賭けをして、そして、生き延びた 」村上春樹インタビュー和訳:エマ・ブロックス、ザ・ガーディアン

以前、村上春樹のカタルーニャ賞でのスピーチを英訳したところ(英語の品質には問題はあったけれど)好評だった。いまでもけっこうアクセスする人がいる(http://goo.gl/Gi2hH)。今度は「1Q84」の英訳が出版された機会に、英語の媒体(the Gurdian)に出た村上…

日本近代文学の死(2)

昨日のエントリー「日本近代文学の死」(id:yagian:20110923:1316721100)の続き。 「日本近代文学の死」といっても、日本語で文学作品が書かれなくなるという意味でもなく、日本語の文学作品を読む読者がいなくなるという意味でもない。 「やがて哀しき外国語…

日本近代文学の死

世の中の話題の移り変わりは早いから、もう、たいていの人が忘れてしまっているかもしれないけれど、水村美苗「日本語が亡びるとき」が賛否両論(賛成という声はほとんど聞かなかったが)を巻き起こしたことがあった。 この本の中で水村美苗が書いているけれ…

上滑りの開化

しばらく前、会社の人たちと飲みに行った。そのとき、隣合わせになった私とほぼ同世代の人が、自分は大学時代哲学科にいたんですよ、と言った。私自身は文化人類学科の出身だけれども、私の会社では彼も私も変わり種だと思う。バブルの時代の大学生活の思い…

日本近代文学の黄金時代と日本近代散文の成立

水村美苗は「日本語が亡びるとき」で次のように書いて、かなり批判された。 …それは、日本に日本近代文学があった奇跡を奇跡と命名する勇気を私についに与えてくれた。だが、そお奇跡はそのまま喜びに通ぜず、その奇跡を思えば思うほど、ふだんからの悪癖に…

個人の自立と民主主義

最近、福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、なぜ、日本の原子力行政が暴走してしまったのか、また、暴走を止めることができなかったのか、ということを考えている。 以前のエントリー(日本語版「日本は民主主義国家なのか」 (id:yagian:20110628:13092…

日本語で書くということ、英語で書くということ

稲本がハルバースタムのことを書いていたが(id:info-d:20110625)、確かに、ハルバースタムとかボブ・ウッドワード、カポーティの「冷血」を取り上げてもいいかもしれないが、アメリカのジャーナリズムと日本のジャーナリズムには大きな差を感じてしまう。 文…

沖縄の人は歴史を背負っている

伊波普猷の「古琉球」を読んだ。 近世以降の沖縄は苦難の歴史の連続で、沖縄の人たちは必然的に重い歴史を背負っている。 以前、沖縄出身の人と心霊スポットについて話をしていたときに、その人が軽い調子で「沖縄って戦争があったから心霊スポットが多いん…

多言語環境のなかの日本文学

もともとは、英語版のウェブログ(http://goo.gl/DO0oi)に書いたエントリーだったけれど、わりと評判がよかったので、日本語に訳してみた。 最近、「英文学」に関するエントリーを書いた(http://goo.gl/hnj3B)。そのなかで、英文学を専攻しているという大学院…

「植民地文学」としての日本文学

読書の記録をしようと思い、読書メーター(http://goo.gl/ZsAG)を使っている。 読書メーターを通じて、私がフーコーを何冊か読んでいることを知った大学院生からメッセージが届いた。英文学を専攻している大学院生で、これからフーコーに挑戦しようとしていと…

「坂の上の雲」と夏目漱石

先日の記事(id:yagian:20110526)で、歴史小説や大河ドラマが国民の統合を促す「建国神話」として機能しており、その意味では司馬遼太郎はまさに「建国神話」の書き手である「国民的作家」だと思う、ということを書いた。 どうも私には虎の尾を踏んでしまうく…

建国神話と天皇タブー

今谷明「室町の王権」を読んだ。 足利義満が天皇家から権力、権威を奪取しようとしていたという仮説について書かれた本である。室町時代についてはあまりよく知らなかったから、いろいろと勉強になった。 足利義満という人物は、天皇家に取って代わろうとし…

志ん朝と談志、江戸っ子と東京人

稲本のウェブログ(id:yinamoto)に、志ん朝と談志について書かれたエントリーがいくつかある(id:yinamoto:20110513, id:yinamoto:20110502, id:yinamoto:20110211)。それを読んで思いついたことを書こうと思う。 はじめに書いておくけれど、私自身は稲本のよ…

三陸海岸大津波

つれあいが買った吉村昭「三陸海岸大津波」を読んだ。過去、三陸海岸を襲った明治二十九年、昭和八年、チリ地震津波について、過去の証言を丹念に集めた作品である。 今回の大震災と津波の直後は品切れになっていたようだが、今は増刷されて入手可能になって…

真の保守主義者としての津田左右吉

「津田左右吉歴史論集」を再読した。あいかわらず津田先生(先生と呼びたくなるお人柄なのである)は実に率直で、読んでいて実に爽快、痛快だった。 津田先生はいわゆる「空気」をまったく気にせず、自分の興味関心に忠実にしたがって研究を進め、自分が正し…

日本的組織とリーダーシップ

まず、この文章を読んでいただきたい。 それに加えて大地震に対する日本政府の危機処理能力は、信じがたいほどお粗末なものだった。彼らは驚愕に文字通り立ちすくみ、敏速で適切な対処をすることに失敗した。いくつかの国から派遣申し込みのあった救助チーム…

匪賊とテロリストと社会環境

エリック・ホブズボーム「匪賊の社会史」を読んだ。現代社会のことを考える上でも、日本の歴史を見直す上でも、非常に参考になる視点を提示している本だと思う。 「匪賊」ということばがなかなかイメージしにくいが、原題は"Bandits"である。ホブズボームは…

「偉ぶらない」こと

村上春樹の「雑文集」をちょうど読み終わった。彼の文章はいつも刺激的で、彼の文章についていくつも日記を書きたくなる。 この本のなかで、小説家とはなにか、ということについて書かれた文章がある。その部分を引用したい。 小説家とは何か、と質問された…

「ノルウェイの森」誤訳問題について

村上春樹「雑文集」を読み終えた。 「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」は、ある程度まとまった長さのあるインタビューを集めた本だったが、「雑文集」はいろいろなところに寄稿した短い文章「雑文」を集めたもので、村上春樹の楽屋裏を見るような面白…

ウーマク誠小の歌と人生

昨日、つれあいが夕食の準備をしているときに、上機嫌で「ヒヤミカチ節」の鼻歌を歌っていながらテレビを見ていたら、つれあいに「誠小の歌を聴きながら帰ってきたのね」と言われた。図星だった。「ハウリング・ウルフ」という彼のCDを聴いていた。もしかし…

J. G. バラードと強迫観念

J. G. バラードの「人生の奇跡」「太陽の帝国」「女たちのやさしさ」を読み終えた。 「人生の奇跡」は遺作となった自伝であり、「太陽の帝国」と「女な血のやさしさ」は自伝的小説である。 バラードは1930年に上海の租界で生まれた。租界は、事実上の帝国主…

夏目漱石、西洋と東洋の文化の狭間で

以前のウェブログに「近代日本語は、伝統的な日本語「やまとことば」、漢文、西洋語が合成されたものである。」と書いた。(id:yagian:20110409:1302297897) 近代日本文学において最も重要な小説家の一人と評価されている(私は近代日本最高の知識人だと思っ…

桜の樹の下に

今日は西行法師の和歌について書こうと思う。 和歌は日本の最も広く作られている伝統的な詩型である。西行法師は、著名な歌人で、1118年に貴族として生まれ、その後出家した。 彼は、桜をテーマとした次のような和歌を作っている。 願はくは花の下にて春死な…

あなたのような人にしか東京は救えないのです。

ニューヨークタイムで、村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」と今回の地震に関する批評を読んだ。(” Super-Frog” By JOEL LOVELL March 22, 2011 http://goo.gl/ZiS6k) 「かえるくん、地球を救う」は、1995年の阪神淡路大震災をテーマにした短篇集「神…

J.G.バラードの生涯と小説

J.G. バラードの「人生の奇跡 J.G.バラード自伝」 (http://goo.gl/fXFFy) と「楽園への疾走」 (http://goo.gl/7Yw6O) を読み終わった。今、「女たちのやさしさ」 (http://goo.gl/74zwI) に取りかかっている。 学校に通っている時、国語の授業で、小説を読む…

J. G. バラードの世界

今、J. G. バラードの「人生の奇跡」を読んでいる。 彼は、上海で生まれ、第二次世界大戦中、家族と一緒に日本軍に収容された過去を持っている。そのことを「太陽の帝国」に書いている。 彼の体験はリアルだけれども、厳しすぎる体験だから、非現実、超現実…

地域語としての日本語、国際語としての英語

水村美苗の「日本語が亡びるとき」「日本語で読むということ」「日本語で書くということ」を読み終わった。 彼女は、英語が国際語となった現代の世界において、一地域語である日本語で読み、書くということの意味、また、英語で読み、書くという意味について…

移動する子どもたち

このところ、自分が英語を勉強していることもあって、異文化の間に立たされた人間に興味がある。それで、江戸時代の日本から外国へ漂流した人たちの話や幕末に日本へ着任したヨーロッパ人の手記などを読んでいた。 今度は、現代において異文化の間に立たされ…

中国の盗賊と日本の雑兵

高島俊男「中国の大盗賊・完全版」を再読した。稲本が推薦しているように(id:yinamoto:20100302:p1)、実におもしろい本で、中国を理解するためには欠かせない本のひとつだと思う。 本書のいちばんスリリングな部分は、もちろん、毛沢東による中華人民共和国…

幕末の英語通詞の数奇な運命

佐野真由子「オールコックの江戸」を読んだ。幕末に着任した初代駐日公使オールコックの駐日時代の事跡に関する本である。そのなかに、しばらく前に読んだ岩尾龍太郎「幕末のロビンソン」(id:yagian:20110107:1294350917)に登場した人物が顔をだしている。通…